巨蟹宮 22.水の泡しかうまれない話

―6月22日―

これから話すのは、私、蟹沢弥涼(かにさわ・いすず)の恋の話。
これは、水の泡しかうまれない話。
全てが実ることなく、水の泡となったお話。

まず最初に言っておくと、私は普通の人間ではない。
生まれたのは今より50年近く前だから、本当の年齢はとうに60を超えている。
しかし何の因果か「不老不死の体」を手に入れた私は歳をとることがなくなり、見かけだけは少女のまま今に至る。
――見かけだけ。
そう、私は“見かけだけは”少女だが、心は大人だ。
私の心は自分でもわかるほど老成していて、いつもどこか達観している。
そんなバランスの取れていない体と精神を抱えた私は人付き合いが苦手で、今のチームに入るまでは殆ど人との交流を持つことはなかった。
まだ人間であった頃に諸々の人間関係に悩み、その末に他人に心を閉ざすようになったというのもあるかもしれない。
私は、一人でいるのが好きだった。友達を作りたいとも、誰かに恋をしたいとも思わなかった。
そんな私にほんの少し変化を起こさせた出来事があったのは、今から二年前の六月のことだった。