2-2.パキスタン~紅海で登場した刺客
鋼入りのダン(スティーリー・ダン)
パキスタン・カラチで承太郎一行を襲撃したスタンド使い。端正な顔立ちをした男性。他の刺客と同様に承太郎一行の殲滅を命じられていたが、同時に彼らに捕えられたエンヤ婆の口封じも命じられていた。
初登場の時は丁寧な口調で話すなど落ち着いた人物を装っていたが、実際は自分より弱いものを徹底的に痛めつける卑劣漢であり、相手より優位に立つと途端に傲慢に振舞い始める(注釈6)。本性を現した後は口調も一変し、ガラの悪い口調で喋っていた。
当初はドネルケバブ売りに変装しており、たまたま自身の店にやってきた承太郎一行と出会った際にエンヤ婆を殺害し正体を現す。それと同時にラバーズをジョセフの脳内に入り込ませ、自身のスタンド能力を見せつけることで彼を人質に取り、承太郎達が自分を攻撃できないようにした。
その後ジョセフ達がラバーズを撃退するために逃走すると、残った承太郎が自分に手出しできないのをいいことに彼を自分の言いなりにして痛めつけたが、離れた場所にいた花京院とポルナレフがラバーズをジョセフの脳から追い出したことで形勢が逆転。弱気になって降参したふりをしながら反撃を試みたが失敗に終わり、逆に自分が反撃を食らう結果となった。最後は本当に降参したが聞き入れられず、「今までの行動のツケを払ってもらう」として怒りを爆発させた承太郎にとどめを刺された(注釈7)。
ラバーズ(恋人)
ダンのスタンド。非常に小さなスタンドで、エイリアンのような姿をしており、腕にカニのようなハサミがついている。喋ることができ、「マギーッ!」という口癖がある。
パワーが異様に低く、ダンも「最弱のスタンド」と自称しているが、実は後述するようにかなり厄介な性能を持つスタンドである。
本体と感覚を共有することができ、本体が痛みなどの感覚を受けると自分も同じ感覚を受けるという特徴がある(これはスタンドがダメージを受けると本体にもダメージが跳ね返るという仕組みの逆でもある)。この特性と体が非常に小さい点を利用して人間の体内(脳内)に入り込み、脳の神経を刺激することで本体の感覚を相手に与えることができる。更にこの時感覚は倍増されて伝わるため、ラバーズに入り込まれた人物は本体が少しの痛みを覚えただけでも激痛を感じるようになる。射程距離も非常に長いため、本体から遠く離れても自在に動くことができる。
これらに加え、肉の芽を脳の中に持ち込み急成長させることで相手の命を奪うという技も持っており、この方法でエンヤ婆を殺害したほか、ジョセフの脳に入り込んだ際にもこの方法で彼の命を奪おうとした。更には脳細胞を自在に操ることもでき、ジョセフの脳内で脳細胞をこねて肉の芽を繁殖させる養分にしていた他、花京院とポルナレフが小さくしたスタンドをジョセフの脳に入りこませてラバーズを排除しに来ると脳細胞を使って自分の分身を大量に作り出し(注釈8)、彼らを攪乱した。
名前の由来になったタロットカード「恋人」の絵柄はウェイト版では「寄り添う男女」だが、マルセイユ版と作中のタロットカードでは「一人の男性を取り合う二人の女性」になっている。この絵柄はジョセフの命を巡って争った承太郎とダンの姿に重なる。ちなみに、ダンの名前の由来になった歌手「Steely Dan」のアルバムのジャケットにも「寄り添う男女」が描かれた物がある。

アラビア・ファッツ
アラブ首長国連邦の砂漠で承太郎達を襲撃したスタンド使い。太陽の絵が描かれた服を着た小太りの男性。容姿は一コマしか登場していない。
鏡を貼った車に乗り込んで周囲の風景に紛れながら砂漠を渡ろうとしていた承太郎一行を追跡し、ザ・サンを発動させ攻撃を開始。高熱とレーザービームによる反撃で一行を苦戦させたが、車に鏡を貼っていたことが仇となって隠れていた場所を見つけられてしまい、最後はスタープラチナが投げつけた石で鏡を割られた上にその石が頭に当たって気絶し、能力を解いてしまった。
作中で一番あっさり倒された刺客で、彼が登場したエピソードは原作でわずか2話しかなかった。
ザ・サン(太陽)
アラビア・ファッツのスタンド。「偽物の太陽を作り出す能力」を持ったスタンドで、外見は太陽そのもの。光や熱も本物の太陽そっくりで、夜でも辺りを昼間のように見せかけることができる。
相手の上空にとどまって熱を発し続け、相手が近づこうとするとレーザービームを放って攻撃してくる。
このスタンドは本体の真上に出現するという特徴を持ち、相手を追跡しながら攻撃するときは本体も一緒に移動する必要がある。
名前の由来になったタロットカード「太陽」は、正位置では「誕生」「満ち足りた喜び」・逆位置では「不調」「流産」などを表しており、「太陽の二面性」(植物を成長させ恵みをもたらすものと日照りによって人間を苦しめるもの)を表すカードとされている。ザ・サンはこのうち太陽の「人間を苦しめるもの」そのままの能力を持っている。

マニッシュ・ボーイ
DIOの刺客の一人で、生後11か月の赤ちゃん。
見た目はただの赤ちゃんだが大人並の知能の持ち主で、本性は非常に狡猾で人を小馬鹿にしている。サソリを素早く安全ピンで刺す・タバコを吸う(一行が眠った後でタバコを吸っている描写がある)など赤ちゃんらしからぬ行動を多数とっている他、口の中に八重歯が生えている(普通赤ちゃんの歯は前歯から生えてくる)。
アラブ首長国連邦とサウジアラビアの国境近くの村・ヤプリーン村で、手始めに宿に泊まっていた花京院の夢に入り込んで彼を襲撃した。翌朝病気になった赤ん坊として母親(注釈9)と共に登場し、セスナ機で砂漠を超えようとしていた承太郎一行に保護され彼らと行動を共にすることになる。その後セスナでの移動中に居眠りした花京院を再度襲撃し始末しようとしたが失敗。その際花京院に自分が敵のスタンド使いだと知られてしまうが、自分が赤ちゃんであることを利用して彼を孤立させ、一行が就寝したところで彼ら全員を悪夢世界に引き込みとどめを刺そうとした。
しかし、その際に花京院が夢の中にスタンドを持ち込んだことで形勢が逆転し、死神13を倒されて降参。赤ちゃんだったため再起不能にはされずに済んだが、最後に唯一自分が敵であることを覚えていた花京院から「お仕置き」としてとんでもないとどめの一撃を文字通り「食らわされる」羽目になった。
死神13(デスサーティーン)
マニッシュ・ボーイのスタンド。マントを羽織り大鎌を持った死神の姿をしており、ピエロのような仮面をつけている。非常に饒舌で「ラリホー」という口癖がある。
人型のスタンドに見えるが、実は胴体と足がない。
生物の夢の中に入り込む能力」を持ち、ターゲットが眠ると能力が発動。夢の中に「悪夢世界(ナイトメア・ワールド)」という遊園地のような空間を作り出してターゲットをその中に引き込む。悪夢世界に引き込まれたターゲットの精神は死神13の支配下に置かれるため、あらゆるものを本体の思い通りにすることが可能。引き込まれた人物の体の一部(髪の毛など)や衣服の一部の形を変えることもできる(一行全員を悪夢世界へ引き込んだ際にはこれを利用して承太郎・ポルナレフ・ジョセフを拘束した)。
悪夢世界に引き込まれた人物は夢の中で負傷すると現実でも同じ傷を負い、夢の中で殺されると現実でも死んでしまう。更に悪夢世界へ引き込まれた人物は誰かに起こしてもらわないと夢から脱出することができず、目覚めると夢の中で経験したことをすべて忘れてしまう。
また、夢の中で精神を支配できることから、スタンド使いを夢の中に引きずり込んだ場合はスタンドを封じて無力化することができる。ただし、「スタンドを出した状態で寝ているスタンド使い」を引きずり込むとスタンドも一緒に引きずり込んでしまう。
余談だが、口癖の「ラリホー」はゲーム「ドラゴンクエスト」シリーズに登場する「敵を眠らせる魔法」の呪文でもある。
名前の由来になったタロットカード「死神」は「13番目」のカード。絵柄と番号、更に正位置では「死」「終わり」といった意味があるため「不吉なカード」とされることが多く、マルセイユ版では名前が書かれていない「名無しのカード」になっている。それに引っかけたのかは不明だが、承太郎達はエジプト上陸前までに戦った敵の中で唯一死神13のことだけを覚えていなかった(注釈11)。

カメオ
紅海の小島でポルナレフを襲撃したスタンド使い。長髪の男性。
自身は離れた場所で土の中に隠れており、単独行動をとっていたポルナレフの前にジャッジメントを遣わせ、妹の死やインドでのアヴドゥルの一件を引きずっていた彼の心に漬け込む形で攻撃をかけ追い詰めた。しかし本物のアヴドゥルがポルナレフを助けに現れたことで形勢が逆転、彼にも「願いを叶えてやる」と持ち掛けるが逆に反撃を食らってしまう。更に、ポルナレフを追い詰めた際に自身のスタンド能力の秘密を暴露したことで身近な人間の死を受け入れられずにいたポルナレフの心を利用したことを知られ、ポルナレフやアヴドゥルの怒りを買う結果にもなった。
その後、呼吸用の筒を土の外に出していたことからポルナレフ達に隠れていた場所を発見され、筒の中に泥や虫、火の点いたマッチを放り込まれるも我慢していたが、とどめにポルナレフ達の小便を入れられたことでたまらず土の中から飛び出してしまう。最後はアヴドゥルに許しを乞うたが聞き入れられず、マジシャンズレッドの炎でとどめを刺された。
ジャッジメント(審判)
カメオのスタンド。ロボットのような姿をしており、「HAIL 2 U!(君に幸あれ!)」という口癖がある(形勢が逆転した後はアヴドゥルやポルナレフにこの口癖をもじって「地獄を! きさまに! HELL 2 U!」と言い返された)。当初はポルナレフの前にランプの魔人を装って現れた。
近距離パワー型のスタンドで、パワーやスピードに優れている。
相手の願いを土に投影して叶える能力」を持ち、土から相手の願いに見合ったものを作り出すことができる(土から相手が願ったものの幻影を作る)。「死者を甦らせてほしい」という願いを聞いた場合は土で甦らせたい人物の人形を作り出すが、その土人形はジャッジメントが願いを叶えた人物を襲うようにできている。
名前の由来になったタロットカード「審判」には「復活」と言う意味がある。奇しくもこの回では「いったん退場したアヴドゥルが復活・合流する」という展開が描かれた。

ミドラー
最後に登場したタロットカードの暗示を持つ刺客で、ネーナとエンヤ婆に続く三人目の女性のスタンド使い。潜水艦に乗って紅海を渡ろうとしていた一行を襲撃した。
かなり有名なスタンド使いだったらしく、アヴドゥルも彼女の名前とスタンド能力について知っていた。好きな男性のタイプは承太郎らしい。
自身はエジプトの海岸で待機し、ハイプリエステスを承太郎達が乗っていた潜水艦に潜ませて一行を襲撃。彼らが潜水艦から脱出すると海底に化けさせたハイプリエステスで一行を飲み込み一網打尽にしようとした。その際承太郎から褒めちぎられて(注釈12)喜んだが、他のメンバー達が褒めちぎると「嘘を言っている」と激怒して彼らを攻撃。その末にハイプリエステスの歯で承太郎をすり潰そうとしたが、スタープラチナのラッシュでスタンドの歯を全て粉砕されて敗北し、そのダメージが跳ね返ってきて再起不能になった。
作中では姿は1コマしか出ておらず、どんな顔をしていたかははっきり描かれていない(注釈13)。第3部を原作とした格闘ゲームでは描き下ろしのグラフィックが追加され、ジプシーのような恰好をした女性となっている。
ハイプリエステス(女教皇)
ミドラーのスタンド。人間の顔に二本の腕を付けたような姿をしている。巨大化すると巨大な人面の姿になる。
鉱物で出来たものに化ける能力」を持ち、機械類やプラスチック・ガラス製品にも化けることができる。作中ではこれを利用して金属製のコーヒーカップや潜水艦内の計器などに化けて姿を隠しながら一行を攻撃した。
遠距離操作型のスタンドで、本体との距離によってパワーが増減する特徴がある。
本体から離れているときは小さな姿で鉱物で出来たものに化けながら現れ、腕についている爪で相手を攻撃する。逆に本体から近い場所にいる時は巨大化して相手を口の中に飲み込み、歯で押しつぶす戦法を取る。
ちなみに巨大化した時の歯は「ダイヤモンド並みの硬度を誇る」と豪語していたが、スタープラチナのラッシュの力には敵わず粉々にされてしまった。
名前の由来になったタロットカード「女教皇」は逆位置では「激情」「ヒステリー」という意味を持ち、これはミドラーが承太郎以外の面々に褒めちぎられた時に激怒した場面と重なる。ちなみに「女教皇」には「独身女性」という意味もある。

<注釈>
注釈6…その一方では激怒した承太郎の剣幕に気圧されたり、彼の行動に焦ったりするなど小心な一面も見せていた。
注釈7…これまでの敵と同様にスタープラチナのオラオララッシュを叩きこまれてとどめを刺されたが、ダンが食らったラッシュはこれまで承太郎が敵に食らわせたラッシュよりはるかに多い単行本3ページ分にも及ぶものだった。
注釈8…この分身は攻撃を一度食らっただけで崩れるほど脆いものだったが、体が崩れるとその分増殖していくという特徴を持っていた。
注釈9…実は母親ではなく赤の他人で、たまたま一人でいたマニッシュ・ボーイを保護して連れてきていた。本人の台詞からマニッシュ・ボーイが泣き声を通じて彼女を操っていたことが示唆されている。
注釈10…エジプト上陸後の花京院と承太郎達のやり取りより。花京院が「僕たちいろんな場所を通ってきましたよね。脳の中とか、夢の中とか…」と言った際に承太郎とポルナレフが死神13の一件を覚えていないことを示唆する発言をしている。
注釈11…この時の台詞は承太郎自身が考えたのではなく、ミドラーの言葉を聞いたポルナレフの機転により彼が考えた台詞を承太郎が言っていた。
注釈12…海岸で気絶したミドラーの姿を見つけたポルナレフが彼女の顔を見ているが、直後ポルナレフは「歯が全部折られているから見ても無駄」と話している。