5.ジョセフ達の修業
ローマでの一件の二日後。シーザーに助け出されてヴェネツィアにやってきたジョセフは、彼から「柱の男と戦うためにも修業を積み、波紋をさらに精密にコントロールできるようにならないといけない」と告げられる。シーザーは自分の波紋の師匠にジョセフを紹介して修行を積んでもらおうと考えていた。
翌朝、ジョセフ達はヴェネツィアの運河からシーザーの師匠がいる修行場へ行こうとするが、その途中で仮面をかぶった正体不明の波紋使いに襲われる。驚きながらも応戦するジョセフ。すると、それを見た波紋使いは仮面を取って正体を現した。
仮面の下から現れたその素顔は、何と妙齢の美女。その女性こそ、シーザーの波紋の師匠である波紋使い「リサリサ」であった。

リサリサは二人を「エア・サプレイーナ島」という小島へと案内する。そこはリサリサの住む屋敷であり、同時に遥か昔の古代ローマ帝国時代に作られた波紋使いの修業場だった。
二人はここで、リサリサの指導の下波紋の修業を積むことになる。まず最初に与えられた試練は波紋を使って油の流れる柱を上り切る「地獄昇柱(ヘルクライム・ピラー)」。波紋の持久力を試すためのこの修行は多くの修行者が命を落としたという難関で、一見簡単そうに見えるが体力をかなり消費する凄まじいもの。しかもジョセフはリサリサから波紋の呼吸を更にコントロールするために呼吸を矯正するマスクをつけられており、ハンデがある状態だった。

波紋で少しずつ柱を上っていくシーザーだが、予想以上に体力を消費し苦戦する。一方のジョセフはどうしていいかわからなかったものの、シーザーが昇っていく様子を見て「指先から一転集中で波紋を流す」方法を会得し、柱を少しずつ昇って行った。
ところが、その途中でジョセフはうっかり柱に仕掛けられていたトラップにかかってしまい、柱の継ぎ目から高圧で噴き出した油の壁に行く手を阻まれてしまう。
これを見たシーザーは「くっつく波紋」と「弾く波紋」を使い、油の壁を滑って突破。柱を上り切ることに成功した。一方、ジョセフはそこまで精密な波紋を練ることはできないため、波紋で油の壁を滑ることでこれを突破し、柱近くの壁に着地することに成功する。
何とかトラップを突破したジョセフだったが、既に体力は限界に近くなっていた。落ちそうになったその瞬間、シーザーが手を伸ばしてジョセフを助ける。
こうして、ジョセフ達は何とか「地獄昇柱」の試練を突破することができたのだった。

その後、二人はリサリサの使用人で彼女と同じ波紋使いである「ロギンズ」と「メッシーナ」を師範代とし、彼らの下でさらに過酷な修行を積むこととなった。
そしてそれから3週間後の修行の最終日。指輪の溶解まであと一週間を切ったその日、二人は最後の仕上げとしてロギンズたちとの手合わせをおこなうことになる。


6.エイジャの赤石~ジョセフVSエシディシ
最終試練の当日、リサリサと共に買い出しに出かけたジョセフは、リサリサを襲おうとしたスリを撃退する。スリが狙っていたのは、リサリサが持っていた赤い宝石のネックレスだった。
赤い宝石は「エイジャの赤石」と呼ばれる特別な石で、リサリサが所持しているものはその中でも一点の曇りがない「スーパーエイジャ」と呼ばれる完全なものだった。リサリサはジョセフに、柱の男達が探し求めているのがこの石であること、そして彼らが赤石を欲する目的を明かす。
50年前にジョセフ達の祖父をはじめとする多くの人々を悲劇に巻き込んだ石仮面。それを作ったのは、彼らがローマの地下で遭遇した柱の男「カーズ」だった。カーズが石仮面を作った目的は、その力によって自分達の弱点を克服し「究極の生物」となること。だが普通の石仮面では柱の男の脳への刺激が足りないため、それがかなわなかった。そこで、カーズは「スーパーエイジャ」をはめ込んだ石仮面を使うことで自分達の脳を刺激できるだけの力を得ようとしていたのだ。
話を聞いたジョセフは赤石を壊してしまえと言うが、リサリサはそれはできないと拒む。波紋使いには「この石を破壊すれば柱の男を倒せない」という言い伝えが伝わっていたのだ。

その日の深夜、いよいよジョセフとシーザーは最後の試練を迎える。ジョセフはロギンズ、シーザーはメッシーナとそれぞれ手合わせをすることになった。作戦を練りながら手合せの場へと向かうジョセフ。
しかし、そこでジョセフを待っていたのは彼の相手をする予定だったロギンズではなく、柱の男「エシディシ」だった。エシディシはリサリサがスーパーエイジャを持っていることを突き止め、それを奪うべく島に乗り込んできたのだ。そして、ロギンズはジョセフが到着する前に既にエシディシに殺されてしまっていた。

ジョセフはロギンズの仇を討つため、そしてリサリサの下へ向かおうとするエシディシを止めるために彼に戦いを挑む。ジョセフはエシディシに追い詰められるも事前に考えていた策で彼にダメージを与え、同時に彼を激怒させて冷静さを失わせる作戦に出た。
ところが、ジョセフの攻撃を食らったエシディシは激怒するどころか子供のように号泣し始めてしまう。その様子を気味悪がるジョセフ。しばらくすると、エシディシはすっきりした様子で傷を治し始めた。実は彼は直情的な自分の性格をコントロールするため、激怒しそうになると大泣きして感情を抑えるという癖があったのだ。

完全にペースを乱されてしまったジョセフは、更にエシディシに自分の考えを読まれてしまう。エシディシは単なる直情家ではなく、ジョセフと同じく相手の裏をかくことを得意とする策士であった。
更に、摂氏500度まで熱した血液を操り物を発火させる流法「怪焔王の流法」を持つエシディシは、その力を以ってジョセフに襲いかかる。
ジョセフの策を先読みして容赦なく彼を追い詰めるエシディシ。しかし、ジョセフは更にその裏をかいてエシディシに反撃し、遂に彼を撃破する。
解毒剤を手に入れたジョセフは、何とか一つ目の指輪を消すことができた。
しかしその時、ジョセフは気づいていなかった。自分の背中に、脳と血管だけの姿になって生き延びていたエシディシが取り付いていたことに――

リサリサに勝利の報告をしに行こうとしていたジョセフは、その途中でリサリサのメイド「スージーQ」と出会う。ちょっと天然なところがある彼女は、最初はジョセフを見てびっくりしていたものの、すぐに彼と打ち解けた。
その後、彼女と別れたジョセフはリサリサの部屋に行くが彼女は入浴中。これ幸いとばかりにこっそりリサリサの入浴を覗いたジョセフだったが、そこで彼は部屋の中にさっきまで外にいたはずのスージーQがいるのに気づく。
それと同じ頃、リサリサもスージーQの様子がおかしいのに気づく。それと同時に、彼女は入浴時に外して机の上に置いていた赤石のネックレスがなくなっていることに気付いた。
その瞬間、スージーQは奇妙な構えを見せてリサリサに飛びかかる。それを見たジョセフは、彼女にエシディシの残骸が取り付いていることに気付いてリサリサを助けようと部屋に飛び込んだ。

スージーQの肉体を乗っ取ったエシディシは、二人に「赤石はとっくに仲間の下へ送った」と告げ、彼らが赤石を追うのを妨害しようとする。駆け付けたシーザーも事情を知ってスージーQを助けようとするが、エシディシは彼女を盾にして二人の前に立ちはだかった。更に、エシディシが放った熱血でスージーQの肉体は火傷を負ってしまう。
エシディシを追い出しスージーQを助けるには波紋を流すしかないが、波紋を流せばスージーQはショック死してしまうかもしれない。だが、ジョセフは機転を利かせてシーザーと共に「正の波紋(くっつく波紋)」と「負の波紋(はじく波紋)」を同時に流すことでエシディシを引き剥がし、スージーQを助け出すことに成功する。そして、彼女の体内から逃げ出したエシディシは朝日を浴びて灰となり消滅したのだった。
そして同じ頃。スイスにいたカーズはエシディシからの連絡が途絶えたことから、彼がジョセフ達に敗れたことを悟る。


7.崖っぷちの死闘
スージーQがエイジャの赤石入りの小包を郵送した郵便局へ向かったジョセフ達は小包がスイスへ送られたことを聞き出し、報告を受けたリサリサはジョセフ達とメッシーナと共に急ぎスイスへと向かった。その日の夕方、一行は何とかスイス行の貨物列車に追いつくことができたが、そこへナチス・ドイツの兵士達が現れて赤石を回収してしまう。
驚く一同に、兵士たちのリーダーらしき杖をついた男は「赤石は自分達が預かる」と告げ、自分達はジョセフ達の動向を監視していたこと、柱の男との一件も知っていたと話す。更に数日前サンマルコ広場でリサリサを襲ったスリの正体は自分の部下で、赤石を奪うためにあの場所へ派遣していたというのだ。ジョセフは苛立つが、リサリサは赤石を取り戻すために兵士達についていくことを決め、四人は兵士達と行動を共にすることになった。
その時、ジョセフは杖をついた兵士が何故か自分の名前を知っているのに気付くが、この時にはまだ彼が誰なのか気付いていなかった。

ジョセフ達はドイツ兵たちと共に、駅の近くのロッジに滞在することになる。その日の夜、エイジャの赤石の在処を突き止めたカーズが現れて兵士たちを急襲してきた。と、そこへあの杖をついた兵士が現れてカーズに立ち向かう。彼の体温が全く感じられないことを不審に思いながらも応戦するカーズ。すると、兵士はその驚くべき正体を現した。
何と彼は、メキシコで命を落としたあのシュトロハイムだった。彼は全身を機械化したサイボーグとなっていたのだ。偶然にもその場にやってきたジョセフはカーズの奇襲とシュトロハイムの復活を知ってただただ驚くばかり。

サンタナのデータを基にサイボーグ化されていたシュトロハイムは、そのパワーを以ってカーズに応戦。更に胴体に仕込んでいたマシンガンでカーズを蜂の巣にする。
だがカーズも負けてはおらず、腕から出した鋭い刃でシュトロハイムのマシンガンの弾丸を弾き返し、更にシュトロハイムの胴体を真っ二つにしてしまう。この切れ味鋭い刃「輝彩滑刀」こそが彼の流法「光の流法」によって繰り出される武器であった。
カーズは身動きが取れなくなったシュトロハイムからエイジャの赤石を奪うが、シュトロハイムはカーズ達柱の男が「太陽に含まれる紫外線」を弱点としていることを知っており、片目に仕込まれていた紫外線照射装置でカーズに紫外線を浴びせた。堪らず手を放すカーズ。その瞬間、彼が落した赤石は崖に向かって転がっていってしまう。
それを見たジョセフは赤石を取り戻そうと走り出すが、カーズも追いついてきた。ジョセフは崖っぷちでカーズから赤石を取り返すも、カーズは足から出した刃でジョセフをひっかけ道連れにしようとする。しかし、ジョセフはカーズに対しエイジャの赤石を盾にすることで彼の攻撃を防御。カーズは一人だけ谷底に落ちていった。
何とか赤石を守ったジョセフは氷柱を波紋でつなげてロープ代わりにして上ろうとしたが、長さが足りず落ちかける。そこに駆け付けたシーザーが手を貸して彼を無事引っ張り上げたのだった。


8.鮮赤のシャボン
翌日、一行はエシディシがエイジャの赤石を送ろうとしていたスイス・サンモリッツに到着した。ここには廃業したホテルがあり、カーズはそこを根城にしているらしい。
シーザーは昼間のうちに攻撃をかけるべきだと言うが、ジョセフはそれに反論する。カーズは昼間の襲撃に備えて何か対策を練っているはず、アジトに踏み込むのは危ないと。
これにシーザーが反論したことで二人は激しく対立。その際、ジョセフが「50年前の因縁など持ち出すな!」と言い放ったことでシーザーが激怒し、二人は殴り合いの大喧嘩に発展してしまう。リサリサとメッシーナの仲裁で何とか喧嘩は収まったが、シーザーはジョセフやリサリサの制止を振り切って一人で廃ホテルに向かっていってしまった。
シーザーの様子がおかしかったことに気付き戸惑うジョセフに、その理由を教えたのはリサリサだった。リサリサは、シーザーがあそこまで激怒したのには彼の過去が深く関わっているのだと言う。

かつて、シーザーは父のマリオや弟・妹達と共に幸せに暮らしていた。だが、彼が10歳の時に突如マリオが失踪したことで彼の運命は大きく変わった。父が遺していた生活費も悪い親戚に騙し取られてしまい、シーザーはやがて父を憎むあまり性格が荒れ、ギャングからも恐れられるチンピラと化した。
16歳のある日、シーザーは偶然ローマの街中で失踪した父の姿を見つける。後を追っていった彼が辿り着いたのは、柱の男達が眠っていたあの地下遺跡だった。その時、シーザーは柱の男達が眠っていた柱に埋め込まれた宝石に惹かれて彼らの下へ近づいて行ってしまう。しかしそれは、柱の男達がエサになる人間を捕えるために仕掛けた罠だった。
その瞬間、シーザーが柱の男に近付いていくところを目撃したマリオは彼を突き飛ばし、彼の身代わりとなって柱の男に取り込まれてしまった。その時、彼はシーザーに「ヴェネツィアにいるリサリサという女性にこのことを伝えてくれ」と最後に言い残して逝った。
――父が失踪したのはこの遺跡に眠っている柱の男を倒す方法を見つけるためだったこと、彼がリサリサの下で波紋の修業を積んでいたことをシーザーが知ったのは、その後のことであった。

そして今、シーザーは父の仇である柱の男達を倒すため、たった一人で廃ホテルの前にいた。
そこに彼を止めようと追ってきたメッシーナが追いついてくるが、突如透明の人影が現れてメッシーナに重傷を負わせ連れ去ってしまう。その人影の正体は、水蒸気をまとって姿を消したワムウだった。
シーザーとワムウはホテルの外で戦いを繰り広げ、その末に負傷したワムウはホテル内に逃走。今こそ勝算ありと見たシーザーは彼の後を追ってホテルに飛び込んでいく。
一方、リサリサからシーザーの過去を知らされたジョセフは彼が柱の男との戦いにあれ程躍起になっていたその理由を知り、リサリサと共にシーザーの下に向かおうとしていた。

ホテルの地下でワムウと対峙したシーザーは、奥の手「シャボンレンズ」で壁の切れ目から入ってきた日光を増幅させてワムウに当てることに成功。だがその直後、とどめに波紋入りの跳び蹴りを食らわそうとしたのが仇となってしまった。ワムウはその瞬間にシーザー自身が日光を遮ったのを見逃さず神砂嵐を放ったのだ。
零距離で神砂嵐を食らったシーザーは、致命傷を負わされてしまう…。

ワムウはその場を立ち去ろうとするが、その背後でシーザーが残された力を振り絞り立ち上がった。もうやめろと制止するワムウ。しかしシーザーはなおも彼に向かっていき、彼が身につけていた解毒剤のピアスを奪い取る。
シーザーは言う。父は自分を庇って死に、祖父もまたジョセフの祖父の命を救って死んでいった。それなら、自分だって誰かのために何かをしなければ死にきれないと。
そしてシーザーは、最後の力で練り上げた波紋のシャボン玉に身につけていたバンダナと解毒剤のピアスを入れて飛ばし――
――力尽き、落下してきた瓦礫の下敷きになった。

ワムウはシーザーが最後の力で作った赤いシャボン玉を見つけ、それを割ろうとするが、すぐにその手を止めてシャボン玉に背を向け、その場を去っていった。
「俺はお前のことを永遠に記憶の片隅に留めておくであろう」と、瓦礫の下のシーザーに呼びかけながら。

少し遅れてホテル内に入ったジョセフ達が目にしたのは、神砂嵐で滅茶苦茶に破壊された室内と、その中に浮かぶ赤いシャボン玉だった。そのシャボン玉を手にしたジョセフは、その時流れた波紋の感覚でシーザーが命を落としたことを悟り、大きなショックを受ける。
一方、リサリサは冷静に振舞い、シーザーの遺体を捜そうとするジョセフに「今はシーザーの死を悼むよりもワムウらを討つほうが先決だ」と告げる。ジョセフは彼女の冷淡とも思える反応に怒りを覚えるが、その直後にあることに気付いてそっと声をかけた。
「リサリサ先生…タバコ、逆さだぜ…」
リサリサもまたシーザーの死を知って動揺しており、それを必死に隠そうとしていたのだ。
その時、二人は十字架の形をした瓦礫の下から大量の血が流れ出しているのに気づく。それは、その瓦礫の下にシーザーがいることを二人に示していた。
それを目にした瞬間、ジョセフとリサリサは遂に悲しみを堪え切れず、その場に泣き崩れたのだった――。

(その2終わり・その3へ続く)