師走に入ってますます寒さが増しましたね。比良坂蒐です。
今回は私が今読んでいる漫画の一つを紹介します。

桜小路かのこ「BLACK BIRD」
<物語>
-第一章-
女子高生の原田実沙緒(はらだ・みさお)は、幼い頃から人には見えない妖怪が視えていた。
幼い頃に出会った初恋の人と交わした「実沙緒が16歳になったら迎えにくる」という約束を信じて初恋の人を待ち続けていた実沙緒は、16歳の誕生日の前日に自分が通う高校に新任教師として赴任して来た初恋の人・烏水匡(うすい・きょう)と再会を果たす。
幼い頃の約束を守ってくれた匡との再会を喜ぶ実沙緒だったが、匡は彼女に驚くべき事実を語った。実は、実沙緒は100年に一度産まれる「仙果(せんか)の娘」という特別な人間であり、彼女は16歳の誕生日を境に妖怪に力を与えられる存在になる運命にあったのだ。更に、仙果の娘は「妻に迎えれば妖怪の一族に繁栄をもたらす」と言われる反面「血を飲めば寿命が伸び、肉を食べれば不老不死になれる」とも言われており、その言葉通り実沙緒は16歳になったと同時に様々な妖怪から命を狙われるようになってしまう。
そして実沙緒は、匡が人間ではなく天狗という妖怪だったこと、彼が自分の下へやってきたのは実沙緒を他の妖怪から守るためであったことを知る。

-第二章-
仙果の娘の力を得てから妖怪に狙われるようになった実沙緒は、匡に守られながら日々を過ごしていた。その中で実沙緒は少しずつ匡と心を通わせるが、実沙緒をめぐる争いはやがて匡達天狗の一族にも飛び火し、ついにある日匡と彼の兄・祥(しょう)との間で争いが発生する事態が起きてしまう。
その後、祥との争いを制した匡と実沙緒は更に絆を深めていったが、そこへ妖怪を一方的に憎む人間の青年・渡辺頼光(わたなべ・らいこう)が現れたことで事態は急変する。頼光の罠にかかり命の危機に晒された匡を救うため、実沙緒は彼に抱かれることで自分の力を分け与える=匡の妻になる決意を固める。

-第三章-
遂に結ばれた実沙緒と匡。実沙緒を妻に娶った匡は強大な力を得て最強の妖怪となり、実沙緒を巡る妖怪同士の戦いは終息した。しかし、匡は実沙緒が更に危険に晒されることを懸念して必要以上に実沙緒に触れないようになり、それと同時に匡が仙果の娘を手に入れたことを快く思わない妖怪達が人間を操って実沙緒を襲うようになる。匡に助けられながらも責任を感じ落ち込む実沙緒。
そんな中、匡との争いに敗れ死んだと思われていた祥が匡達の前に現れる。実は彼こそが妖怪に人間を操って実沙緒を襲うよう指示していた黒幕であり、祥は自分を支持する天狗達を率いて天狗一族の長である匡を倒そうと目論んでいた。
支持者を率いて匡達に卑劣な罠をしかける祥一派と、それに立ち向かう匡と臣下の天狗達。両者の争いが激化する中、祥の自分に対する想いを知った実沙緒は…

-最終章-
祥と匡の争いは、祥の死を以って終息した。
それから数日が立ったある日、実沙緒は突然自力で妖怪を祓えるようになる。今までになかった力が発現したことから実沙緒は自分が人間から妖怪に近づきつつあるのではないかと不安を覚えるが、それは実沙緒の体内に「妖怪を祓える力を持った存在が宿った」こと--実沙緒が匡の子供を妊娠したことを意味していた。
妊娠を知った実沙緒はこれを機に高校を中退し、匡と籍を入れ結婚。二人は子供の誕生を待ちながら一緒に暮らし始めた。
しかし、実沙緒を狙っていた妖怪が匡の屋敷に現れたことで事態は急転する。300年前に妖怪と結ばれた仙果の娘の生涯を記録した書物「仙果録」の結末を知るその妖怪は、実沙緒の妊娠を知ると突如匡を嘲笑い、「仙果録」の結末を彼や実沙緒達に語る。それは、「妖怪の子供を妊娠した仙果の娘は出産と同時に命を落とす」というものだった。
子供が産まれれば実沙緒が死ぬと知った匡はショックのあまり取り乱し、一度は実沙緒に子供の堕胎を嘆願するが、「子供を産んで、匡と子供と三人で生きたい」という実沙緒の想いを知り、実沙緒を延命させる手段を探し始める。しかし、匡が見つけた手段は実沙緒だけを生かすことでしかなく、彼の頭に実沙緒の子供のことはない。その上、匡は実沙緒が死んだら後を追おうとまで思い詰めていた。
そんな中、ストレスから倒れた実沙緒は夢の中で自分の子供に出会い、同時に匡が今までどれ程実沙緒を大切に想っていたのかを知る。匡の想いを知った実沙緒は「匡と同じ時を生きたい」と想いを伝え、匡も実沙緒の想いを知ってようやく目が醒め、「子供が産まれるまで実沙緒のそばにいる」と決めたのだった。
そして翌年の春、実沙緒は遂に出産の時を迎え…

<レビュー>
久々に少女漫画を読みました。元々は妖怪と人間のラブストーリー=異類婚姻譚を下敷きにした物語という点に惹かれて少しずつ読んでいたのですが、上記の第三章の途中で飽きてきてしまい、途中で読むのをしばらく辞めていました。
しかし、去年たまたま「こころはらぺこ」さんというブログの感想記事を拝見して最終章のストーリーを知り、再びこの作品を読み始めました。以降はレンタルした単行本と掲載雜誌とで読み進めています。
少女漫画らしいストーリーもいいのですが、私が惹かれたのは所々に散りばめられた小ネタ。主要人物となる妖怪の名前に歌舞伎や能に登場する妖怪の名前が用いられていたり、古典文学に登場する妖怪が出てきたりと古典や妖怪が好きな人には堪らない小ネタが多数登場します。この作品を通じて古典に興味を持つ人が増えてくれたら嬉しいですね。
ストーリーの方は一貫して暗くシリアスな雰囲気ですが、所々でそれを緩和する緩いギャグが入っており、暗くなりすぎないようになっています。所々現代の少女漫画らしい所もありますが、それを異類婚姻譚というテーマと絡めて描いているのがなかなか面白いです。

そんな「BLACK BIRD」も今月13日に発売される「ベツコミ 1月号」で最終回を迎えます。
それに備えて、12月号のストーリーを簡単に載せておきましょう。
***
春、恐らくは四月頃。
実沙緒は部屋で秘密の日記をつけていた。
臨月を迎えた実沙緒だったが、出産予定日を過ぎても子供が生まれる気配は未だない。
一方、匡は実沙緒の出産が近いことから仕事を休んで実沙緒に付き添い続けていた。

一緒に入浴し、夜桜を見て、子供時代に出会ってから今までの出来事を思い返す二人。
冗談も交えながら話し合う中、実沙緒はふと初夜の翌朝のことを覚えているかと言う。
あの時もこうして満開の桜が部屋に吹き込んできていた。あの朝の幸せを片時も忘れたことはないという実沙緒。

匡は言う。実沙緒と出会っていなかったら、きっとこんな幸せを知ることはなかっただろうと。
実沙緒も言う。最初はいきなり自分の運命を告げられ、命を狙われて理不尽だと思っていた。けれど匡と出会ったことで大きな幸せを得ることが出来たと。
匡と一緒にいられて幸せだった、と結ぶ実沙緒。匡は彼女を抱きしめ、今まで言うことがなかった「愛してる」の一語を実沙緒に伝える。

そしてその日の夜、遂に実沙緒は陣痛を迎えた。
お産の準備に追われる匡の部下達。苦しむ実沙緒の手を握り締める匡。
部屋に残された実沙緒の日記には、匡への想いが綴られていた。

匡は言葉にはしなくとも、今まで私を愛していることを態度で示してくれた。
匡と一緒に過ごして、匡が人生をかけて私を愛してくれたことがわかった。
だから私は、ここに匡への想いを書き記す。
こうして書けば、想いは残るから。

『匡 大好き
愛してる
愛してる』

そして数分後、屋敷に産声が響き渡った。
***
最終回は果たしてどうなるのか。
現代の異類婚姻譚はハッピーエンドで終わるのか。
ベツコミ1月号発売日には私もレビューを書く予定です。