それいけ凡人くん! 第二回
俺が学食でコロッケうどんを啜っていると、隣の席に誰かが座った。
「やあ山田君」
同じクラスの……えーとなんてやつだったっけ?
「おう」
だが俺は何の興味もなく、辛さが足りなかったのでテーブルの七味の缶を手にとって蓋を回す。
「ちょっと聞いてくれよ山田君」
そいつはニヤニヤと得意げに話すのをイライラしながら、うどんを啜った。メシが不味くなるな。
「なんだよ一体」
「この間話した設定のことだけど」
こいつは、俺が趣味が読書で、しかも少しだがSF小説も読むって言ったぐらいで食いついていた。SFたって筒井康隆とか星新一のを「たしなみ」程度に読んでるぐらいなのに、最近のライトノベルは云々とか言い出してきやがった。
そんなのはな、はてなダイアリー辺りで上からモノ視線で書いてりゃいいんだよ。ブログで書けば同意のコメントが寄せられるなりコメント欄がいい具合に炎上するなり誰かがかまってくれる。だが生身で聞く気にはなれん内容だ。んなもん、犬の糞ほど役に立たねぇんだよ。
「ああ、なんだって?」
俺はそいつの設定話については左から右へ軽く受け流しただけであってほとんど覚えてない。確かコンピューターがどうのこうのとかそういうのだったが興味もないし糞面白くもなかったので忘れていた。
「ほら、昨日話した。ハレノソトエンジンのことだよ」
「そうだったか?」
俺は最後に残したコロッケをぱくついた。作り置きですっかりと冷めているはずの学食のコロッケにうどんのダシがいい具合にしみこんでいる。ソースをつけて食べるコロッケとはまた違う味わいだ。でも早く始末しないとダシの中でコロッケが崩壊しちまうんだよな……。
「この世界は巨大なコンピューターによってシミュレーター演算されていて、その世界に住む我々はそのプログラムの一部でしかない。そのコンピューターがハレノソトエンジン」
思い出した。こいつは小説を書いているらしくてその設定の話を延々としていたのだった。こいつの書く小説は全てそのハレハレユカイの親戚みたいな名前のスーパーコンピューターが作り出した世界であるってことと、そのコンピューターを通じて世界は繋がっていて、そこに住む人たちはそのコンピューターが作り出したプログラムという理屈らしい。よくわからんが、コンピューターゲームの中の世界がそのまま自分たちの世界だ、と言えばいいのだろうか。
「でもシミュレーターは完璧ではないから、プログラムに自我が生まれるんだよ。ここにドラマが生まれるんだ」
俺は思うのだが小説でドラマを生み出すのにどこぞの宇宙人か何かが作ったか知らないスパコンのシミュレーター上のプログラム世界であるという設定である必然性が理解できない。
「俺思ったんだけど、その宇宙人が作ったハレノソトうんたらって、お前が考えてる物語のどこに絡んでくるの?」
思わず俺も話に乗ってしまった。
「違うよ! 宇宙人じゃないですから! 情報生命体ですから!」
そいつはいきなりの剣幕で怒鳴る。少し間違えただけでそんなに怒ることじゃないだろ……。
「分かったよ。でどこで絡むんだ?」
「ハレノソトエンジンを作った情報生命体は作り出した世界に介入することは出来ない。だから、人間型のプローブを作って人間たちとコンタクトを取るんだ」
「てめぇが作ったコンピューターのプログラムってんなら好きなように書き換えちゃえばいいだろ。いちいち人の張子作る意味が分からねぇ」
俺も本だけはたくさん読んできたつもりだ。だからこいつの言う設定に穴がある、というか設定だけ作って肝心の物語とかが見えないことに我慢できなくなってきていた。
設定厨ってのは誰もが陥りやすい罠だ。色々とこねくりまわしてるだけで物語のツジツマあわせるよか楽だからな。設定だけ立派だけど中身のお話がペラペラ、所謂ひとつの「ガンダム」の見すぎだ。
「僕は思うんだ。もしかするとハレノソトエンジンは実在するんじゃないかって」
「はぁ?」
というより俺の質問に答えろって話なのだが、もっと素っ頓狂なことを言い始めた。
「僕らがいるこの世界も実は、情報生命体が作り出したシミュレーターで、僕たちはその一プログラムに過ぎないんだ」
俺は何とも言えない気持ちになった。
「そして、それを思いついた僕は多分、プローブなんだろうと思う」
「なぁ米沢」
そろそろ嫌気がさしてきたのでトドメを刺すことにする。
「学校前の停留所から、松沢病院行きのバスに乗れ。いいな? 行くところは精神科だぞ、いいな?」
俺は言い聞かせるように言い、盆を持って席を立った。
「や、山田君!」
「それとその話を他の誰かにするなよ」
こんなのをずっと聞かされる身にもなってくれ! と言いたいところだけど俺はそこまで言う必要もねぇだろと判断したのである。
どうして俺の周りにはこんなマジキチなやつらばかりなんだ! と思いながら俺は食堂を出たのである。
(続かない)