遠いロシアの国の記憶 〜驚異の源氏物語編②〜
さて日は変わって約束の日に約束の時間、かの教授の部屋を訪問し、彼に連れられて教室に行く。見渡すと20人ばかりの若い子達。圧倒的に男の子日本語を、日本人の私以上に自由に操るこの教授の生徒達、一体どんなレベルだろでもミンナ大学から勉強し始めたって話だし、初級中級日常会話レベルかな「はい皆さん、こちら、嶋さん。日本の方です。1学期間このクラスで皆さんと一緒に勉強なさいます」...ぇぇええええええ〜〜っにほんごぉぉおおお〜〜ちょっと待ってミンナ今の教授の日本語が分かる、そんなスーパー・パイパー・ちょ〜激ハイレベルの子達なんっ「さぁどうぞ」と促され、ふと我に帰って慌てて自己紹介を始める私...「こ...こんにちは、初めまして、嶋千香子といいますロシア語を勉強しにアメリカからきましたこれから1学期間、皆さんのクラスにお世話になりますよろしくお願いします」「よろしくお願いしま〜す」通じてる〜〜メッチャメッチャ通じてる〜〜「じゃ、嶋さん、空いてる席にどうぞ」「あ、はぃはぃはぃ」「あの、よろしかったら、ここ、どうぞ」すぐ側の男の子が声をかけてくれる...非の打ち所がない日本語だ「あ、ども」日本語の発音って難しいのに、外人さん特有のぎこちないアクセントがまるで無いできる相〜当〜そ〜と〜できるっ「あのぉ... ちなみに皆さんって、何年くらい日本語勉強してらっしゃるんですか」さっきの子に聞いてみる。「1年とか2年位じゃないですかね」「〜じゃないですかね」「〜じゃないですかね」たった1〜2年で「〜じゃないですかね」〜っ「...そんな短くて、そんな日本語お上手に...」「僕の場合、去年1年間九州大学に留学していましたから」「え九大あたし福岡、近くです」「え、そぅなんですか、奇遇ですね」「奇遇」ぅぅ〜たった1〜2年で「奇遇」ぅ〜っダメだ、ラベルが違いすぎる、彼らの前でもロシア語なんか、絶対、絶対、話せないっ「はぃじゃぁ皆さん、前回の復習から行きましょう」教授の声が教室に響く復習そーいや日本語の何の講義か聞いてなかった。復習が必要な講義ってなに文学歴史それとも日本語超上級とか「さぁじゃぁ大きな声で一斉に。『未然・連用・終止・連体・已然・命令』」「未然・連用・終止・連体・已然・命令」こっ................古文〜〜っなにそれっなにそれっなにそれっなにそれっ聞いてないっ聞いてないっ聞いてないっ聞いてないっ知ってたら来てないっ来てないっ来てないっ帰るっ帰るっ今すぐ帰るっ非情な教授の講義は続く「はぃじゃぁ下一段活用。『け・け・ける・ける・けれ・けよ』、はいっ」ケーケーケルケルケロケロケロ言えてない言えてない私だけが言えてないっいや、ちょっ、ミンナ、あたしのこと見てるけどさ、これ、別に、日本語の一般常識とかじゃ全くねーしねっわかってくれてるっそこんとこっそれから何がどーなったのか、頭がほぼ真っシロシロで記憶は飛び飛びでしかないけれど、「源氏物語」のナントカの「帖」ってとこの現代語訳と、先の「ケロケロ」みたいな文法やって、でも、別に当てられて答えられなくて恥かかされることも全く無く、ひたすら小さく目立たない様に、落ち武者気分で最後までなんとか生き延びれはしたけれど...寮に帰ってまたしてもベッドにヘタリ込むまさか新生ロシアで平安時代の「源氏物語」に討ち取られようとは私、あのクラスのテストに合格できる自信ないアメリカ帰ってフランス語とった方が、100倍マシじゃなかろうか今日の講義で取ったノート&教授から貰った大量の資料...「下一段活用...ケーケーケルケル...」「下二段活用...キーキークルクレ...」「上一段...上二段...」ダメ、ムリ、高校でやったの、完璧に忘れてるでも、とりあえず次の講義分まで憶えなきゃ、あまりにもお国の恥すぎるいいアイディアだと思ったのに...チョロぃ講義だと思ったのに...ロシア語を勉強しに来たロシアで、日本語の古文をやらされる...なんとマヌケな我が身かな...次回「ア然の番外編」へと続く