いくつかの証拠
- バッハ:無伴奏チェロ組曲全曲/寺神戸亮
- ¥3,990
- Amazon.co.jp
いくつかの証拠
ジュゼッペ・トレッリの「小さな室内協奏曲集」
Concertino per Camera (1687)はこの時代には珍しく銅板印刷であるが、各曲の頭文字が小さな銅版画によって装飾されている美しいものである。
ヴァイオリン・パートの1ページロはプレリュードPreludioのPが装飾されており、大きなPの字の横にヴァイオリニストが立って演奏している様子が描かれている
《図2》
その背景は踊る人たちと、のどかな田園風景である。
チェロ・パートの第1ページは、と見ると、同じくPの字の横に楽器を構えた人物が描かれているが、いまのチェロではなく、かなり大型のヴィオラのようなものを斜めに構えて立って演奏している、まさにヴイオロンチェロ・ダ・スパッラを演奏している人物が描かれているのだ!
〈図3〉
これを楽器のことをよく知らない画家の認識不足による間違いということはできない。
なぜならページの右下にはこの楽譜の原版を彫った人のサインがあり、カルロ.ブッフアニヨソティ(Carlo Buffagnotti)と読み取れる。
このブッフアニヨツティ、実はあのバッハやモーツアルトも橡に会員となった、ボローニヤの権威あるアカデミア・フイラルモニアに演奏家(suonatore)として登録されており、しかもその専門楽器はヴイオロンチェロ(violoncello)なのだ!
彼にとってヴイオロンチェロはこのように立って演奏する肩掛け型の楽器だった、ということになる。
おそらく彼自身、このようなスタイルで漬奏したのだろう。
同じころの作曲家、アントニオ・カルダーラAntonio Cardalaは1688年、ヴェニスのサン・マルコ寺院の器楽奏者リストに「ヴィオラ・ダ・スパッラ」viola da spallaの演奏家として載っている。
その後1694年にはヴイオロンチ-ノvioloncino奏者となっているが、彼の作品1のソナタ集では自分自身をヴイオロンチェリストvioloncellistと呼んでいる。
これらはすべて同じ楽器を指すものと思われる。
すなわち単にヴイオロンチェロ、あるいはヴイオロンチ-ノと呼んだ場合でも肩掛け型の楽器、スパッラである可能性は高いのだ。
さて、ヴイオロンチェロ・ダ・スパッラ、ヴイオロンチェロ、ヴイオロンチ-ノ、ヴィオラ.ダ・スパッラ、ヴィオラ・ボンポーザ、ヴイ
オロンチェロ・ピッコロなど、さらにたくさんの呼び名が登場した。
もうお分かりであろう、これらはすべて同じ楽器を指す可能性がある!
(もちろんヴイオロンチェロは今日のチェロを意味する場合もある)
他にもカントドゥ・ヴイオロン(quintedeviolon)、ドイツではファゴット・ガイゲなどと呼ばれたこともあったようだ。
恐らくサイズが一定せず、調弦や用途も時によって、あるいは楽器によって違っていたので、このように名前が統一されなかったのかもしれない。
しかしながらこの楽器、実際にはかなりいろいろな場面で重宝がられたようだ。
バッハの時代にも使われていたらしい形跡がある。
1705年や1747年(!)のボローニヤの教会での式典の図には明らかにヴイオロンチェロ・ダ・スパッラが演奏されている様子が描かれているし、ドイツの有名な理論家、ヨハン・マテゾンはこのように書いている-
「素晴らしきヴイオロンチェロ、バッサ・ヴィオラ、ヴィオラ・ダ・スパッラは小さなベース・ヴァイオリンであり、5-6本の弦を持つ。この楽器では早い楽句、変奏、装飾音などを大きな楽器に比べて少ない労力で演奏することができる。
加えて、ヴィオラ・ダ・スパッラすなわち肩のヴィオラは伴奏に優れた効果を発揮する
なぜならその音はよく透り、音符をはっきりと泰することができるからだ。
通奏低音はこの楽器ほど明瞭に、際立たせて演奏できるものはない。
この楽器はバンドで胸から肩にかけて固定されているので響きを邪魔するものが何もないからだO」
まさにここに番かれているように、この楽器は小型なので速い走句などを演奏しやすく、低音楽器の中でもソリスティックな役割を担うことが多かった。
コンチュルト・グロツソなどでもチェロのソロ・パートなどを担ったのではないだろうか。
では欠点は、というと,構え方のせいで実はあまり高いポジションが使えない。
つまり、後のハイドンやボッケリーニのような超高音を駆使するような音楽には向いていないのだ。
それが18世紀後半、現在のチェロにソリスティックな役割を譲った原因のひとつなのかもしれない。
また、弦長の割りに低い音を出さなければならないのでいきおい弦が太くなる。
重たい弦、と言い換えてもよい。
これが時によって演奏に困難をもたらす。
最後に、レオポルド.モーツアルトが有名な「ヴァイオリン奏法」の冒頭、様々な弦楽器を紹介する部分で述べているいささか不思議な記述をご紹介しよう。
.....それはファゴット・ガイゲで、サイズと弦が少しばかりヴィオラと異なっています。
これをHandBass-Violと呼ぶ人もいますが、それはファゴット・ガイゲよりもほんの少し大きいものです。
(中略)
バスは普通後者(ファゴットガイゲ)で弾きます。-・・ ・.
第7の種類はバス・ヴイオルと呼ばれ、イタリア人はヴイオロン・チェロ(Violon-cello)と呼びますo以前これには5本の弦がありましたが、今では4本です。
・・・・(ヴィオラ.ダ.ガンバの説明の項ではヴイオロン・チェロも足の間で保持しますのでこれも正しくBeingeige (Leg-fiddleと呼ぶことができます
〈図2〉
《図3〉

