father-is-a-partner <ファザー イズ ア パートナー> | 劇部屋24シアターズ

劇部屋24シアターズ

劇部屋24のオリジナル作品「月羽妖夢伝」制作近況や
劇部屋24での上演記録を残していきます!!


俺は田中実(たなかみのる)
日本で一番、同姓同名の多い名前らしい。
俺はスカイプやディスコードを使った声劇を趣味としている。
人が俺のことを劇狂いと言われても仕方ない。
そこで俺は自身のありふれた本名ではなく、
珍しい名前であるガンマと言う名前でやっている。


わたし田中夏奈(たなか なつな)。最近、反抗期に入ったみたいだ。
暴言を吐くだとかかんしゃくを起こして皿を投げてくるだとか
そんなことはしていない。
だけど、声をかけられると、イライラする。
垣間見る、矛盾や理不尽さでまみれた大人社会の一端。
自分の中に潜む「やり場のない思い」が、
素直にならせてくれないのだ。


娘の夏奈は返事が素っ気ないというか、なんというか...
そもそも首を縦に振るだけで返事すらない。
「洗濯物は一緒にしないでー」と言われないだけ
まだマシなほうなのかもしれない。


いつかそういう日が来ると覚悟はしていた。
反抗期と言うのは一種の大人への階段でもあるし、
皆遅かれ早かれ通るものだ
話はそんな 家庭で 出てきたもの。
昔のような関係に戻らないものか
そんな非現実的な詮無きことを考えてしまった。
ヒトビトのモノガタリだ

???
ボイスドラマ
father-is-a-partner 父親はパートナー


24時30分
俺の時間が始まる。
いつものように妻と娘が寝静まったのを確認
そして劇部屋24にアクセス!
そして、その先にはいつものように楽しい仲間たちと
楽しい時間を過ごす自分の姿が・・・・。
あるはずだった。
だが、そのとき・・・・
冷え切った声が俺を現実に引き戻した。

「パパ何してるの?」
「夜遅いんだよ、もう・・・パパ?・・・」


振り返ると娘がそこにいた。
しかし、台本はボクに停滞を許さなかった。
「これで私が死ぬと思うなよぉお!」
「ハッハッハ、第二形態だぁ。
みての通り、我は全裸だ。ゆえに攻撃を受けると
闘志によって攻撃力が増すのだ!!
さぁ勇者達。パーティーの続きだぁ!!」
・・ここで台本は重い沈黙のシーンを迎えた。

リアルでも流れるのは違う意味での沈黙。
わたしの前には、いつもじゃない父の姿がある。

わたしの父・・・いつもの父は・・・・正直イヤだ。
パパが嫌いな訳ではない。むしろ毎日会社に行き、

夜遅くまで頑張ってくれていて感謝している。

だけれども、いつを境にであろうか?

一緒の空間にいると何故かゾワゾワ、イライラするのだ。

それを父に言いたくないし、

余計な事を言って傷つけたくないので声をかけなくなった。

つい、何か小さな事で当たってしまそうだから。

ついつい、暴言を吐いてしまいそうだから....

「ど、どうしたんだ? 
トイレか? それとも、電気でもきれたか?
・・・マイクのミュートに気を付けて声をかける。


そんなんじゃない。そんなんじゃないんだけど・・・


じゃあ、なんなんだ・・・・・


へた・・・・パパ、演技ドへたくそなの!!「最ッ低!!」


え、えええええ


なんなの? あの棒読みちゃんまっさおの棒読み!
まるでヒトとコミュニケーションをとれなくなって、
寂しくて脳内で私の幻影でも作り会話しているの
かとおもったわ!


すみません・・・・


あやまらないで!!
あと、さっきやった、あの劇!
このページの、これ!!読んでみて!!


「ンアァキモチィイ :この攻撃キモチィイ
:あぁあ感じる  :興奮するぅ・・・・:
あはああああみなぎってくるわぁああ」


はい カット!
気持ちよくも感じないし、モジモジしてるし・・・
なんにも感じてこない!!いい?こういうのは人間の感覚に
ストレートに訴えかけるものだから、テレるなんかいうのは
もってのほかなのよ!!


な、夏奈・・・・


何故戦うのか? 考えてた?
なぜあえておかまの声を出したの? 気持ち悪い!
それが趣味なの? なにに活き活きしていたの?
演じたかっただけ?
それじゃあ ただの オナニーしてるのと変わんないのよ!


吐き捨てるように言うと娘は部屋から出て行ってしまった。

しばらくの間、呆然と立ち尽くしていた。
どれくらいの時間そうしていたかは分からないが、

ふと我に返った俺は、明日からどうやって娘に声を掛ればいいのか

考えながら妻の眠る寝室へと向かうのだった。


翌朝・・・休日だった。
朝チュンで目を開け、歯を磨き、朝食を済ませる。40年以上続けてきた、
ルーティンであり、習慣・・・。


パパー ちょっと来て。


な、なに?


早く早く! ご飯食べ終わったんでしょ!?
さあ、やるわよ!!
なにをグズグズしているの!! さあ!パパ!来て!!
稽古!はじめるからっ!



はじめの一歩は怖いもの。勇気を出して踏み出そう。
定石とも言えるその決まり事をこなせないでいた。
「あぁ、悪夢を見た…のかもしれない」


「夢じゃないよ」


「え?」


「こうやって、やるのは 夢じゃない」
だって、私も声劇が大好きなんだもん。
演劇部でもあるしね。
あと、ママ。あの人はあの人で
昔、ボイスコやってたんだって。
だから、苦労とかよくわかるんだって。


え?そうなのか?
でも、なにも言ってくれなかったぞ?


ママが気づかないフリをしてたのよ。ママ言ってた。
昔は今と違って、ボイスコっていうのは、なかなか
友達とかに言うことはできない趣味だったって・・・
だから、パパにはそういう思いせずに存分にやってほしいって



そ、そうだったのか・・・・
で、でも、ママは?なんででてこないんだ?


卒業を決めたからよ。
気持ちに区切りをつけたから、もう、私はもどらない・・てさ
その代わり、私に自分の分も演じってほしいって言ってた。
あと、これ・・・見て?この設備。


お、おおおお・・・・?


ママのボイスコ時代の設備よ。どうせ使わないけど、高かったし
捨てるのもったいないから、使って。だってさ・・・・

ねえ、パパ。ママの分もがんばってみない?アタシといっしょにさ!?


ああ・・そうだな・・!!
その日は妙に絶好調で個人的には満足が行く演技ができていた。

仲間たちもノリノリでいつも以上に楽しい劇ができた。ついつい調子に乗ってしまい、

少しエッチな台本までもノリノリで楽しんでしまった。

そんなパパの姿に私は苦笑を隠せきれなかった。

夢について、趣味について、声劇について、思う。

夢とはなんだろう
夢とはヒトのみが見る未来予想図

大きく空に手を広げ、
もしもそれにたどりつこうとするのなら
その手をツバサに変えて、飛び立とう

もしもそれにたどり着けないと悟るなら
その手を心に押し当てて、
その場にあるものを駆使してかなえよう

ひとは100すすむ。でも追いついていけないとき、
あきらめないで。

100が無理なら50でも無理ならせめて20。
そのかわり20を身に着けよう

毎日のように繰り返して

あたりまえになるようになるまでやって、

OKになってから

さらに次の10を覚えよう。

そのときひとが200に到達して
自分が100しかできないなら

どうしてできなかったのかを省みて
それでもできなかったら100のなかで
満足するものを見つけよう。

もしもまだあきらめる以外の選択肢があるのなら
時間という財産を消費して
明日の道をきめるといい。
すべてに これという 答えはない
なぜなら これは 趣味だから。
答えは人の数だけある。
だが、正解は、その人の心にだけしか
ないのだから。

~終~