♂
俺は田中実(たなかみのる)
日本で一番、同姓同名の多い名前らしい。
俺はスカイプやディスコードを使った声劇を趣味としている。
人が俺のことを劇狂いと言われても仕方ない。
そこで俺は自身のありふれた本名ではなく、
珍しい名前であるガンマと言う名前でやっている。
♀
わたし田中夏奈(たなか なつな)。最近、反抗期に入ったみたいだ。
暴言を吐くだとかかんしゃくを起こして皿を投げてくるだとか
そんなことはしていない。
だけど、声をかけられると、イライラする。
垣間見る、矛盾や理不尽さでまみれた大人社会の一端。
自分の中に潜む「やり場のない思い」が、
素直にならせてくれないのだ。
♂
娘の夏奈は返事が素っ気ないというか、なんというか...
そもそも首を縦に振るだけで返事すらない。
「洗濯物は一緒にしないでー」と言われないだけ
まだマシなほうなのかもしれない。
♀
いつかそういう日が来ると覚悟はしていた。
反抗期と言うのは一種の大人への階段でもあるし、
皆遅かれ早かれ通るものだ
話はそんな 家庭で 出てきたもの。
昔のような関係に戻らないものか
そんな非現実的な詮無きことを考えてしまった。
ヒトビトのモノガタリだ
???
ボイスドラマ
father-is-a-partner 父親はパートナー
♂
24時30分
俺の時間が始まる。
いつものように妻と娘が寝静まったのを確認
そして劇部屋24にアクセス!
そして、その先にはいつものように楽しい仲間たちと
楽しい時間を過ごす自分の姿が・・・・。
あるはずだった。
だが、そのとき・・・・
冷え切った声が俺を現実に引き戻した。
♀
「パパ何してるの?」
「夜遅いんだよ、もう・・・パパ?・・・」
♂
振り返ると娘がそこにいた。
しかし、台本はボクに停滞を許さなかった。
「これで私が死ぬと思うなよぉお!」
「ハッハッハ、第二形態だぁ。
みての通り、我は全裸だ。ゆえに攻撃を受けると
闘志によって攻撃力が増すのだ!!
さぁ勇者達。パーティーの続きだぁ!!」
・・ここで台本は重い沈黙のシーンを迎えた。
♀
リアルでも流れるのは違う意味での沈黙。
わたしの前には、いつもじゃない父の姿がある。
わたしの父・・・いつもの父は・・・・正直イヤだ。
パパが嫌いな訳ではない。むしろ毎日会社に行き、
夜遅くまで頑張ってくれていて感謝している。
だけれども、いつを境にであろうか?
一緒の空間にいると何故かゾワゾワ、イライラするのだ。
それを父に言いたくないし、
余計な事を言って傷つけたくないので声をかけなくなった。
つい、何か小さな事で当たってしまそうだから。
ついつい、暴言を吐いてしまいそうだから....
♂
「ど、どうしたんだ?
トイレか? それとも、電気でもきれたか?
・・・マイクのミュートに気を付けて声をかける。
♀
そんなんじゃない。そんなんじゃないんだけど・・・
♂
じゃあ、なんなんだ・・・・・
♀
へた・・・・パパ、演技ドへたくそなの!!「最ッ低!!」
♂
え、えええええ
♀
なんなの? あの棒読みちゃんまっさおの棒読み!
まるでヒトとコミュニケーションをとれなくなって、
寂しくて脳内で私の幻影でも作り会話しているの
かとおもったわ!
♂
すみません・・・・
♀
あやまらないで!!
あと、さっきやった、あの劇!
このページの、これ!!読んでみて!!
♂
「ンアァキモチィイ :この攻撃キモチィイ
:あぁあ感じる :興奮するぅ・・・・:
あはああああみなぎってくるわぁああ」
♀
はい カット!
気持ちよくも感じないし、モジモジしてるし・・・
なんにも感じてこない!!いい?こういうのは人間の感覚に
ストレートに訴えかけるものだから、テレるなんかいうのは
もってのほかなのよ!!
♂
な、夏奈・・・・
♀
何故戦うのか? 考えてた?
なぜあえておかまの声を出したの? 気持ち悪い!
それが趣味なの? なにに活き活きしていたの?
演じたかっただけ?
それじゃあ ただの オナニーしてるのと変わんないのよ!
♂
吐き捨てるように言うと娘は部屋から出て行ってしまった。
しばらくの間、呆然と立ち尽くしていた。
どれくらいの時間そうしていたかは分からないが、
ふと我に返った俺は、明日からどうやって娘に声を掛ればいいのか
考えながら妻の眠る寝室へと向かうのだった。
♂
翌朝・・・休日だった。
朝チュンで目を開け、歯を磨き、朝食を済ませる。40年以上続けてきた、
ルーティンであり、習慣・・・。
♀
パパー ちょっと来て。
♂
な、なに?
♀
早く早く! ご飯食べ終わったんでしょ!?
さあ、やるわよ!!
なにをグズグズしているの!! さあ!パパ!来て!!
稽古!はじめるからっ!
♂
はじめの一歩は怖いもの。勇気を出して踏み出そう。
定石とも言えるその決まり事をこなせないでいた。
「あぁ、悪夢を見た…のかもしれない」
♀
「夢じゃないよ」
♂
「え?」
♀
「こうやって、やるのは 夢じゃない」
だって、私も声劇が大好きなんだもん。
演劇部でもあるしね。
あと、ママ。あの人はあの人で
昔、ボイスコやってたんだって。
だから、苦労とかよくわかるんだって。
♂
え?そうなのか?
でも、なにも言ってくれなかったぞ?
♀
ママが気づかないフリをしてたのよ。ママ言ってた。
昔は今と違って、ボイスコっていうのは、なかなか
友達とかに言うことはできない趣味だったって・・・
だから、パパにはそういう思いせずに存分にやってほしいって
♂
そ、そうだったのか・・・・
で、でも、ママは?なんででてこないんだ?
♀
卒業を決めたからよ。
気持ちに区切りをつけたから、もう、私はもどらない・・てさ
その代わり、私に自分の分も演じってほしいって言ってた。
あと、これ・・・見て?この設備。
♂
お、おおおお・・・・?
♀
ママのボイスコ時代の設備よ。どうせ使わないけど、高かったし
捨てるのもったいないから、使って。だってさ・・・・
ねえ、パパ。ママの分もがんばってみない?アタシといっしょにさ!?
♂
ああ・・そうだな・・!!
その日は妙に絶好調で個人的には満足が行く演技ができていた。
仲間たちもノリノリでいつも以上に楽しい劇ができた。ついつい調子に乗ってしまい、
少しエッチな台本までもノリノリで楽しんでしまった。
♀
そんなパパの姿に私は苦笑を隠せきれなかった。
♂
夢について、趣味について、声劇について、思う。
♀
夢とはなんだろう
夢とはヒトのみが見る未来予想図
♂
大きく空に手を広げ、
もしもそれにたどりつこうとするのなら
その手をツバサに変えて、飛び立とう
♀
もしもそれにたどり着けないと悟るなら
その手を心に押し当てて、
その場にあるものを駆使してかなえよう
♂
ひとは100すすむ。でも追いついていけないとき、
あきらめないで。
♀
100が無理なら50でも無理ならせめて20。
そのかわり20を身に着けよう
♂
毎日のように繰り返して
♀
あたりまえになるようになるまでやって、
♂
OKになってから
♀
さらに次の10を覚えよう。
♂
そのときひとが200に到達して
自分が100しかできないなら
♀
どうしてできなかったのかを省みて
それでもできなかったら100のなかで
満足するものを見つけよう。
♀
もしもまだあきらめる以外の選択肢があるのなら
時間という財産を消費して
明日の道をきめるといい。
すべてに これという 答えはない
なぜなら これは 趣味だから。
答えは人の数だけある。
だが、正解は、その人の心にだけしか
ないのだから。
~終~