長編だった。
始め姉貴子の奇行にウンザリした。
サトラコヲモンサマ
のクダリを更にウンザリしながら
しかしどこかで身を乗り出して読んだ。
姉貴子はこの信仰宗教の中で
なるべくして何者かになった。
でもそれは完成ではなかった。
姉貴子はこの後更に
謎のアーティストとして奇行を重ね、
挫折と傷心を繰り返す。
ここまで来て、姉貴子の自分探しは
ウンザリから圧倒に変わっていった。
命の叫びみたいだったから。
主人公歩が大学のサークルに入った。
そこで小説を書く人間に会うクダリは
西加奈子自身の感想に思えた。
そこで初めて作者の経歴を調べた。
なんと
イラン生まれのエジプト、大阪育ち。
主人公歩その人だった。
もしくは姉貴子その人だった。
これは自身の半生記なのだ。
主人公歩の自分探しは
毛が抜け始めた辺りから始まる。
ここらは「いいきみ」だった。
それまでずっと他人事な奴だったから。
父の、母の、姉の、友人須玖の、恋人晶の、
痛みや苦悩を嫌っていたから。
彼らの美味しい時間だけを渡り歩いていたから。
私が心底感嘆したのは
両親の離婚の背景だった。
其々が純粋だった。
こんな理由があったのかと思った。
派手で身勝手な母は実は深く夫だけを愛していた。
そして父は自分だけが幸せになる罪悪感で家族を手放していた。
長い時間をかけて2人が自分の“すくいぬし“に出会えたことが泣きたくなる程嬉しかった。
いいなと思う言葉はいくつかあった。
第6章のタイトル
「あなたが信じるものを、誰かに決めさせてはいけないわ。」
これはこの物語のテーマだ。
そして同章
主人公歩が父の寺?を訪れた後、
“すべては、なされなければならない時に、なされているのではないだろうか“
これは
同じことを思ったことがあった。
西加奈子がこのことに気付いたのは
どんなタイミングだったのか、
とても作者に興味を持った。
