見えるもののみをたしかなもの
とみなすような世界においては

見えないもののあることを示す
たしかなしるしが求められよう


見えないものをたしかなものと
みなす世界にしるしはいらない

見えないものはみえないことで
そのものの色をあらわすゆえに


見えないもののたしかな世界に
それでもしるしがあるとすれば

見えないものとの間にあるもの
そのかかわりこそそれであろう



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“…グレイシャーベアは
ついに姿を現しはしなかった。
それでよかった。
グレイシャーベアがこの世界の
どこかにいること、
その気配をぼくは感じていたからだ。

見ることと、理解することは違う。

たとえぼくが餌付けをして
グレイシャーベアをおびき寄せても、
それは本当に見たことにならない。
しかし、たとえ目には見えなくても、
木や、岩や、風の中に、
グレイシャーベアを感じ、
それを理解することができる。

あらゆるものが
私たちの前に引きずり出され、
あらゆる神秘が壊され続けてきた今、
見えなかったことは
また深い意味を持っているのだ。”


星野道夫