ことばのないところから
ことばにならない声が
ふいにきこえてくる

その声はうえへしたへと
じゆうにおどるように
うたをうたうように


まるでこころがもとめる
なつかしさにつつまれ
声をまねてかさねて

くうきをふるわすおとに
この声をしっていると
からだがひびきだす



ーーー

“誰にもいわずにおきましょう。

朝のお庭のすみっこで、
花がほろりと泣いたこと。

もしも噂がひろがって
蜂のお耳へはいったら、

わるいことでもしたように、
蜜をかえしに行くでしょう。”


金子みすゞ「露」