続いての作業は空港アクセスバス運行事業費です。
これは静岡空港と静岡、島田、掛川、浜松の各駅を結ぶアクセスバスの運行委託に関する費用です。静岡空港には4都市からアクセスバスが運行されていますが、利用者が少なく全便を県がバス会社に運行委託したり、採算性は低いものの航空機ダイヤに合わせてどうしても必要な便を追加して運行委託するなどしています。
しかし、これらの利用者は1便あたり平均3人程度、年間の委託費用が1億円近くに達しており、県の担当者も税金の使い道として疑問を呈しているということでした。利用促進のPRを求めることも考えられますが、静岡空港自体の航空便減少傾向、無料駐車場の存在など、バス利用をPR下としても効果は限定的であり、便数の削減、路線の絞り込みはどうしても避けられない状況にあります。
全体としては静岡空港全体の収益性改善が必要であり、バスの問題は枝葉の問題ではありますが、多額の支出がある以上はバス事業のみでも検討はしなくてはなりません。
県の担当者に質疑を繰り返しましたところ、現状把握と分析は的確であり、それに対する解決策も概ね妥当なものであとは実行に移すのみという状況であると判断できました。
こうしたことから、抜本見直しと判断しました。所見としては方向性は妥当であることからあとは勇気を持って実行に移すべきだとしました。
ただし、削減・縮小ばかりでは空港自体の機能がますます低下する懸念があるため、航空便の充実、自然環境に配慮してるくられた空港の特性を生かした魅力向上策を強力に推進すべきだと付け加えました。
空港アクセスバスは知事提唱事業の仕分けと並んで今回の仕分けの目玉とされているもので、多数の報道カメラが入りました。資料映像としてNHKのニュースでも使われるなどしていました。
また、18日付けの日本経済新聞静岡版では、県の担当者を後押しする発言として「勇気を持って推進すべき」という専門委員の発言が取り上げられていました。
事業仕分けというととかく役人叩きのパフォーマンスととられがちですが、あくまでも全体のパフォーマンス向上が目的であって、評価すべき点は評価し、事業の方向性が正しいと判断されるならば担当者を後押しすることも時に必要だと考えています。
これは昨年の県民委員応募の際に提出した小論文でも述べたことであり、私の事業仕分けに対するスタンスです。パフォーマンスとしての事業仕分けに期待する方にとっては物足りないかも知れませんが、無理に批判の方向に持って行くのは結論ありきで理由を後付けするようなもので、極力避けるべきだと思います。
昼食のあと午後の最初は看護職員指導者等要請事業費についてです。
これは看護師を養成するための指導者となる人材を養成する事業です。非常に分かりづらく論点が見つけにくいものでした。私は直前まで問題点を上手く把握できませんでした。
議論も制度の中身が中心で少々些末になってしまっていました。
勉強会でも看護師不足という問題の中でのこの事業の位置づけ、或いは看護師不足に対する労働環境の改善について話し合おうという方向付けはできていたのですが、どうもしっくり来ません。
議論の中で引っかかりを覚えたのが「離職」と言う言葉でした。
「離職」つまり職を離れるということですが、ある病院を辞めて別の病院へ移る、或いは看護師から別の職種に転向してしまうという2点が考えられます。
看護師から別の病院看護師へ転職するための離職が多い場合に看護師不足が認識されているなら、看護師の養成を強化しなければなりません。
しかし、看護師が別の職に移行しているような場合は養成もさることながら、待遇改善あるいは退職者の復職の対策も必要になってきます。どちらかというと後者に近いようですが一応は対策がとられている様子でした。
しかしながら、議論の途中で論点に気づいたため、納得できるまで議論を深めるにはもはや時間が足りませんでした。
全体的に反省点が多い議論でした。
残り2本はいずれも県警の事業です。
学校対策支援活動事業費は警察官OBをスクールサポーターとして各警察署に配置し、管内の小中学校で起こる非行などの問題に対処しようとするものです。
教育委員会との役割分担や地域との連携が主な論点となりましたが、警察官OBの再就職先確保が目的ではないかと言う疑念の声もありました。
担当者に事業を守ろうとする姿勢が強く、同じ内容の回答を何度も繰り返すような状態で、議論としては少々残念なものとなりました。
私は、少々辛めの判定をつけました。
学校の要望があるからやっていると言うことでしたが、要望があれば何でもやっていいのでしょうか。ゴキブリがでたからといって110番する人もいるという話も聞きますが、そうすると警察本来の業務ではないので警察OBが来て駆除してくれるのかななんて思います(もちろん冗談ですが)。
最後は交通安全対策器財充実事業費。
来年に予定されている新東名関連の物品購入、事故捜査や取り締まりの機材についてです。
正直言ってこの事業にはそれといった論点はありません。この事業は当初渡された事業シートのドラフトが雑な作りになっていて、我々専門委員をはじめ、県民評価者からも質問事項が多数出されていました。
しかし、担当者がこの点を真摯に受け止めて当日は購入機材について、口頭で丁寧な説明がありました。これは県民と行政の相互理解を深めるという観点からは非常によいことだと思います。もっとも、準備がしっかりできすぎていると「出来レース」ではないかという見方もされるかもしれませんが。
辛口で鳴らしている構想日本の専門委員も「初めて『現行通り』という判定をつけた」と話されていました。私は「一部見直し」としました。いい議論でしたが、全て完璧というわけではありません。批判的、客観的に再吟味する姿勢を忘れて欲しくないという思いから、迷いましたが「一部見直し」としました。
午後の事業の議論は論点も少なめであった所為か淡々と進み、定刻通りの終了となりました。その後、今年から新設された特別セッションに入ります。
特別セッションは県民評価者の方の中で挙手された方の講評と、専門委員の所感の発表が主な内容です。
昨年は閉会式でスピーチを依頼されて原稿をガチガチに作ったりしていましたが、言いたいことを三点にまとめてメモしそれについて話しました。
最初には仕分けが自分自身の経験を整理する良い機会であり、むしろこちらが勉強させていただいていると感じている点を話しました。私のように行政経験のない者が意見を述べるために頼りになるものは、自分の経験が大半です。仕分け人を努めることは自分自身の経験の棚卸する機会になると今年も感じました。
次に県の職員の方がよく勉強されていると感じた点を挙げました。昨年土地改良の事業で、担当者が目標として食糧自給率向上を挙げました。事業シートに書かれておらずアドリブの発言でしたが、決定的でした。県で想定しているのはお茶やみかん、米の増産ですが、日本の食料自給率はカロリーベースで計算しますので、カロリーの低いこれらの作物を増産しても自給率を上げるのは難しいと考えられます。15日に傍聴した事業の中で、県の担当者は自給率を理由に挙げて説明していましたが、カロリーベースから来る問題についてもきちんと説明を付け加えていました。説明者は去年の仕分け作業に同席の方でしたので、着実に去年の反省が生かされていることが分かり、感激しました。
最後に事業仕分けは結果ではなくプロセスが大事ということを話しました。これは昨年のコーディネータをはじめいろいろな人から教えを受けたことです。キーワードや表面的な結論で独走しがちな報道の問題を、せめて県民評価者の皆さんには知っていただきたいと思い、あえて述べさせてもらいました。こうして一日の仕分け作業が終わりました。
今年は特に疲れました。
しかし、議論を傍聴してくれた同級生と打ち上げで居酒屋に行き、疲れも吹っ飛びました。
本当に有り難かったです