DERI*HELL~デリケートなヘルメット~
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ハテナが心を食い尽くす

私の恋人のことを好きな女性がいるのです。
いたのです。
気持ちは過去形ですが、存在は現在進行形なのです。
友達として、彼とよいお付き合いをしています。

ここに私が口を挟むべきでないことは、頭では十分承知していて、人間としての私は「仲良きことは美しきかな」とうたっているのだけれど。

残念ながら私はまず人間としてよりも女として彼のことが好きなわけで、二人が仲良くしていると、どうも人間の部分を忘れて女として苛立ちを抱いてしまうというわけで。

早く人間になりたい。

妖怪人間のようにシクシクと痛む胃を抑えて叫ぶ毎日。

男と女のどちらか一方が恋愛感情を抱き、それを本人にわからぬ形で心に押しとどめ、そしてやがていい友人に。
という形は、誰にでもあるものだ。
私だって覚えがある。
一杯愛されて愛して、それでも愛せなくて愛されなくて、だけど誠実に交流していった結果、互いによい友人という、二人にとってのベストポジションに納まったこと。
私だって。

だから彼らもそうであると、私はもっと楽観視しなければならないんだろうけれど。

ヒトの心の動きに敏感な自分を、恋愛面でこれほど恨んだこともない。
私だけが、彼女の心を知っている。
私だけが、彼女が私の恋人を好きだったことを知っている。
それがつらい。
知らないふりを続けていく。いかなければならない。
だけど、二人が私の目の前にいるかぎり、どうしても思い出してしまう。

彼女が私の恋人を見るときのまなざしや、
私たちが付き合っていることを知った瞬間の表情や、
『知らなかった…』とつぶやいたときのあの唇の震えや
それから彼と目を合わせないようにしていた彼女の心の動きを

どうして私だけが気づいてしまったんだろう。

近づきたい一心で、彼と同じバイクを買った彼女。
近づきたい一心で、彼に会いに遠い場所からやってきた彼女。
彼に心配してほしくて、自分の病気のことを大げさに周囲に語っていた彼女。
毎日のメール。
丁寧な言葉。
彼の気持ちを引きたくて、私の前で彼に甘えた彼女。
彼の帽子や上着をふざけて身につけてはしゃいだ彼女の、恋をしていた姿を、私だけは、私だけが、きっとずっと忘れられないのだ。

彼女自身が新しい恋をして
忘れて
しまっても。

恋愛小説家

小説家志望の恋人が、実体験に基づく物語を書いていて、そこに昔の恋人が出てくるというジレンマ。

終わったことだとは分かっていても、過去に何度も立ち戻って彼女との思い出を反芻しているかと思うと非常に微妙な気持ちになる。

悔しいのでこっちも過去の男との記憶を総ざらいするのだが、もう興味もなんともない絞りカスみたいな存在の男たちばっかりなのでこれが全く感傷的になれないのだ。

紙の中の存在にキリキリする自分がいかにも馬鹿な女という感じがするのだが、恋愛感情というのはそもそも「バカになること」であって、体験だとか冷静な思考だとかも、ことこればっかりは感情優先になってしまうのであります。

心を過去に置いてきたのかもしれない。

と彼が書けば、どうもすみませんね、現在現実日常で。と、とんがった気分にもなるもので、小説家志望の男の恋人と、漫画家志望の男の恋人にはなるもんじゃないと実感します(前の彼氏が漫画家志望)。

それでも恋人が小説家になる夢は、かなえばいいなと思う。
そのための努力は、本人じゃないけれどしてあげたいと思う。
たとえばこういう醜い感情にフタをして心の一番底に閉じ込めて、結局今一緒にいるのは自分なのだと言い聞かせる作業をし、彼の心に波風立てぬよう細心の注意を払う。

しかし肝心の本人は罪のない笑顔で
「実体験をもとにして書いたんだ。読んでみてよ」と
昔の彼女との切ない思い出や、今現在の生活への不満や不安を書き連ねた悲しい物語を私に手渡す。

これに笑顔で答えるか答えないかが、リトマス試験紙のようで。

そうか。
物語のなかだけにしろなんにしろ
君は心を過去においてきているのか、と。
そうか。
何もいわずにただ別れた恋人が
そんなに今も気になるのか、と。

はりさけそうになる私の胸のうちこそ、
完璧なまでの悲しいラブストーリーを奏でている。

その点だけで言えば
私のほうが彼よりもずっと恋愛小説家なのです。

移ろい

人の心は季節と同様に移ろうものです。
しかし、一方が形を変えるとすかさずそれに形を添わせ、
しっかりと添いとげる心もあります。

それが愛です。