夜の闇に紛れ、独り人里離れた神奈川の山間部にやって来た。
風は僅かにしか吹いていないのに、頬を刺すような冷気だ。
森の影が浮かび上がり、人の気配はなく、驚くほど静まりかえっている。
殺伐とした街の喧騒から離れ、大地と空の息吹を感じる…。
私は、空を見上げた。
期待した星空は、月の明かりに打ち消されているが。
それでも、私は星を見上げている…。
実は数年前、私の友人が病で他界した。
人生の一歩を踏み出して間もなくのことだった。
口数の少ない奴で、話し掛けなければ、何も話さないのではないかと思うぐらい、静かな男だった。
ところが私とは良く言葉を交わし、反対に私の方が聞き役だった記憶がある。
彼は夜、星を見るのが好きだった。小さい頃、よく親に、山へ星を見に連れていってもらったらしい。
知識も豊富で、天体観測の話を始めたら、一晩中、話が止まらないだろう。
私は、天体観測をするようなロマンチストではなかったが、彼の柔らかい話し方が好きだった。
人の心に、自然と溶け込んで、違和感を全く感じさせない、優しさに溢れた温かい話し方だった。
今日、私は亡き友の弔いをしに、ここまでやって来た。
二本のタバコに火を点け、一本は地面に立て、一本は自分で煙を燻らす。
彼の好きだった缶のブラックコーヒーも、二本買ってきた。
ホットをさっき買ったのだが、既に生温い。
今、人肌の温もりのコーヒーを飲みながら、やはり、私は夜空を見上げてる。
一瞬、流れ星が視界に入る。
今はっきりと思う。
今尚、彼は私の心の中に生き続けているのだと。
さて、そろそろ引き揚げるとしよう。
偉大な自然の険しさと冷酷さが、私の胸に去来する、幾多の思い出から、現実へと引き戻す。
「また今度、星の話をゆっくりと聞かせてくれ」
そう心の中で呟き、車に乗り込んだ。
さぁ、帰ろう。
※吸い殻と空き缶は、キチンと持ち帰りました。
Rest in peace my friend.