映画評論家鬼塚大輔教授による映画講座。
イメージ 1今回のテーマは、『エクソシスト』。この映画、僕は怖くて長いこと観られませんでした(汗)。で、初めて観たのが何と三年前。中古のDVDを購入しました。もうさすがにスプラッタな映画も散々観てきたので、そういうシーンは余裕で笑いながら観ることができました(←笑わなくてもいい)。でも1973年当時はまだ観客にはこの手の映像に免疫がなかっただけに、失神者続出とか宣伝されていた記憶があります。
 
現在は映画史上最大のヒットは『アバター』だが、入場料金も違う為、インフレを計算すると、一位は『風と共に去りぬ』になる。そしてワーナー・ブラザース映画に限っていえば、この『エクソシスト』がトップだ。
 
原作はウィリアム・ピーター・ブラッティ。元々はコメディの脚本家で、ピンクパンサー・シリーズの『暗闇でドッキリ』などを書いていたが、別ジャンルの作品も書けることを証明したくて、『エクソシスト』の原作、脚本を書き、製作まで手掛けて映画化した。続編である『エクソシスト2』には関わってはいないが、その出来に激怒して、正当な完結編」として『エクソシスト3』を製作・脚本・監督も兼任している。
 
1949年、メリーランドで起った実話を元にしているが、悪魔にとり憑かれたのは男子だった。
 
シャーリー・マクレーンが娘サチ・パーカーとこの映画に出たかったそうだが、どこの会社も作りたがらなかった。最終的にワーナー・ブラザーズが手掛けることになる。スタンリー・キューブリック監督もやりたかったが、この男に任すと、いつ完成するか分からない(笑)。マイク・ニコルズ監督にオファーしたが、子供が主役ではうまくいくはずがないと断られた。最終的にウィリアム・フリードキン監督に決まるのだが、当時はまだ無名。『フレンチ・コネクション』の大ヒットを受けて、ようやく会社からGOサインが出た。
 
最初の脚本にはストーリー性がなく、無駄を多過ぎると感じたフリードキンは自ら書き直したが、ブラッテイと意見が合わず、『エクソシスト』には何バージョンかがあるという。
 
母親役の女優探しも難航。当時政治活動中だったジェーン・フォンダにはくだらないと一蹴された。オードリー・ヘップバーンはイタリア在住で、ローマで撮影してくれるならOKだった。アン・バンクロフトメル・ブルックスの子供を妊娠中で、一年待ってくれるなら、と言われた。結局エレン・バースティンに回って来て、引き受けた。
 
悪魔に憑かれるリーガン役は、当時モデルやCMにも出ていたリンダ・ブレア。母親に言われてオーディションに行ったが、その場で汚い言葉を言わされたり、カウチに座って痛がってくれ、とテストされた。当初リンダは芝居しようとしていたが、雰囲気を作って自由にやらせ、リアリティを出した。他の俳優たちも演技しているようには見えず、その役になりきっている。
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カラス神父役には、ジャック・ニコルソン、ポール・ニューマン、ジーン・ハックマンらも名乗りを上げたという。一時ロイ・シャイダーに決まりかけたが、人間的な温か味が感じられないからと却下。挫折したカトリックの神父の雰囲気が出ていたジェイソン・ミラーに決定する。
 
メリン神父役にはベルイマン映画に出ていたマックス・フォン・シドー。『偉大な生涯の物語』という映画で、キリスト役をやっているにも関わらず、本人は無神論者だった。『エクソシスト』撮影中でも、肝心の時に声が細くなりうまくいかない。シドー曰く「僕は無神論者だから、説得力ある演技ができない」と言ったとか。
 
家のセットが丸やけになったり、リー・J・コップがその後亡くなったりしたので、祟りではないかと噂されるが、長い期間撮影していれば、そういうことはあり得る。実際の神父も、何らかの事故に過ぎないと語っている。
 
特殊メイクはディック・スミス。フォームラテックスというゴム素材が出来て、映画で活用された。ベッドや家具の怪奇現象などの特殊効果は、手作り、アナログな仕上げである。人力でタンスを動かしたりしている。観客が作りものだと感じたらおしまいなので、リアリティを追求した画面作りに余念がなかった。
 
フリードキン演出は過激を極め、カラス神父の耳元で銃を発射して驚かせたり、胸にかかるはずのリーガンの吐瀉物を顔にかけたりして、本当の感情を引き出したという。役者ではない本物の神父が、神父役で登場するが、なかなか感情表現が出来ない。そこで監督は神父を引っ叩いたという。可哀そうな神父はショックで手が震え、そのシーンが採用されている。
 
リーガンが悪魔にとり憑かれた顔は、新藤兼人監督の『鬼婆』をイメージした。悪魔が出ると気温が下がるという設定なので、4台の特大クーラーを一晩中つけっぱなしで撮影された。顔が凍りつくほどの寒さの中、リンダ・ブレアはネグリジェ一枚という過酷な撮影であった。
 
試写会では観客が場内を走り回っているので、どうしたのかと思ったら、気分が悪くなってトイレに駆け込んでいたようだ。また上映後は観客がしばし呆然として、席を立てない状態だったという。これで話題が話題を呼び、本作品はワーナーブラザース史上、最大のヒット作となるのであった。