7月4日、私は都内の法律事務所に向かっていた。
電車の中で気まぐれに銀行残高を確認したら425円しかなかった、15000円は残してたはずだったのにどうしてこうなってるのかわからないしわかりたくもない。
財布の中には7000円、2日後に知人の送別会へ出席しなきゃいけないのに会費1万円が払えない。
仮に1万円用意できたとして給料日まで食費はどうするんだ?ああ、こうやって人間終わっていくんだ。
力の入らない脚でなんとかビル一室の事務所にたどり着く。
受話器だけ置かれた無機質な空間。
電話をかけると奥からスタッフが出てきた。部屋に案内され借り入れ状況を聞かされる。
カードローン:180万円
クレジットカードA:200万円
クレジットカードB:130万円
クレジットカードC:10万円
合計約520万円の返済が不可能な状態になっていることを説明した。理由は仮想通貨の売買で損失と入金を繰り返していった結果だと伝えた。その後も淡々と手続きが進んでいった。
必要書類に記載をして10分後に弁護士が現れた。
債務整理は3つ
①任意整理
②民事再生(個人再生)
③自己破産
①任意整理は月々の弁済額が現実的ではない。③自己破産は原因が仮想通貨の売買であるからいわゆるギャンブルに相当するため免責不許可事由に該当する可能性が高い。なので②民事再生(個人再生)が現実的な選択肢だと伝えられた。
どうするかと尋ねられたがここに来た以上ほぼ覚悟は決まっていた。
「お願いします。」
人生が終わる瞬間はこうも簡単に訪れるものなんだなと。特に何も感情はなかった。
淡々と、そして事務的に説明が進められる。
弁済額は遅延損害金などを考慮した2割増の650万の5分の1、だいたい130万円を3年で返済する計画で月々の支払は3万半ば。
弁護士費用は約52万円。52万円を払い終えるまでは申し立て準備期間となり。その間に費用と必要書類を準備しなければいつまでたっても裁判所へ申し立ては行われない。
申し立てすると再生委員が選任され、事務所に面談をしに行く。その後履行テストで6か月間弁済額を再生委員に振り込みし、振り込みに問題がなければ3年間の返済が始まる。
そもそも10回分割にしても弁護士費用が支払えない可能性が高いと伝えると7月と8月は3万円、以降は5万円でボーナス月にボーナス全額を振り込むことで合意した。
いろいろ説明してくれてるがこのあたりから何も考えられなくなり弁護士の話もほとんど入ってこなかった。
これで手続きを始めてくるので書類に署名捺印をお願いします。そう伝えられ部屋に一人。書類一つ一つに名前と印鑑を押していく。急に怒りがこみあげてくる、ただすぐに悲しみに変わる、情緒不安定。
突然スタッフが入室してきてあることを伝えられた。
クレジットカードCの債権者が銀行になっているから今使ってる銀行口座はしばらく凍結されてしまう、と。
それは聞いてない、あまりにも予想外。給与振込も全部その口座でやってたのに早急に振込先を変更しなければいけない。
さすがに涙が出そうになった。声を出す力もなくなった。
最後に用意すべき書類一覧の用紙と説明書を渡されたがこれが馬鹿みたいに多いうえに入手が面倒臭そう。もう何も考えたくない。脚だけじゃなくて手にも力が入らない。
事務所を後にするときは本当に廃人のようだった。
電車の中で考える。自分の経済力だと弁護士費用支払いに年末のボーナスを利用して最低でも今から6か月、そしてさらに6か月履行テスト、順調に返済が完了しても終わるころには何も残らないただの35歳がそこにいるわけだ。はは。
気づけば夕方、今日は何一つ食べてない。お金がないからそもそも食べられないんだけど。
2日後の送別会のお金だけは準備しなければいけない。お金なくて参加できないなんて、それだけは避けたい。
破産して民事再生したなんて誰にも言えないし言いたくない。知人、親にだって。今から約4年間、返済が終わるまで絶対に誰にも喋らない。返済が終わったとき、このブログの存在を自分の知り合いに公表しようと思う。
31歳独身男性の戒めの記録、もし更新が途切れたらそれは生きることをやめたときだろう。
帰宅すると郵便受けに不動産会社から封筒が届いていた。
「7月31日に契約満期を迎えます。更新料85,000円と火災保険料22,000円をお持ちになってご来店ください。」
ああああああしぬううー
銀行残高:425円