ガラスケースの中のラブラドール | 出口汪ブログ「一日生きることは、一日進歩することでありたい。」by Ameba

ガラスケースの中のラブラドール

歓楽街の深夜、煌々と光り輝いているショップの前には、

若い女性やカップルたちが人だかりを作っていました。

夜遅くまで営業しているベットショップ。

箱の中に入れられ、値札をつけられた子犬たち。

その中に、一匹のラブラドールレトリバーの子犬が

体を縮めるようにしてうずくまっていました。

ラブラドールは散歩が好きで、一時間の散歩を

一日二回させます。

ラブラドールは人間が好きで、家の中で僕が移動すれば、

いつでもそのあとを着いてきます。

隙さえあれば体をすり寄せ、甘えるのです。

この子犬は物心がつくやいなや親と兄弟から引き離され、

この狭いガラスケースに入れられたのでしょう。

夜遅くまで光を当てられ、大勢の人から眺められる毎日。

おそらく散歩することはおろか、この広い世界を見ることも

ないに違いありません。

人間に甘えることもなく、一日中箱の中でじっとしていて、

大きくなっていく。

そう、ラブラドールは日ごと大きくなっていくのです。

僕はその子犬の前で立ち止まりました。

というのは、その値段札に赤で二重傍線が引いてあり、

「大特価二万円」となっているのでした。

元の値は18万円です。

僕はいつまでも子犬のつぶらな瞳を見つめていました。

本当にかわいらしく、そして大きくて黒い目をしているのです。

その子犬は真っ黒な大きな目で、じっと僕を見つめました。

ラブラドールは大きくなりすぎて、まもなくガラスケースには入りきれ

なくなるでしょう。

今でも体を丸めないと。

売れ残ったペットは殺されてしまうと聞いたことがあります。

そうとは知らずに、ラブラドールは日ごとに成長していくのです。

そうして、その子犬はもうガラスケースには限界なのです。

もし、二万円でも売れ残って(おそらくもう買い手がつかないでしょう)、

役場で処理されたなら、この子犬の生涯は何だったのでしょう。

広い野原を走り回ることもなく、ガラスケースがその世界のすべてでした。

誰からもかわいがられることなく、ものを処分するように、殺されていくのです。

僕は我が家のラブラドールの頭をなぜながら、

時折そのラブラドールのことを考えてしまいます。

本当にきれいな目をしていたのでした。


我が家に来た頃