朝から視聴者を鬱状態に叩き落とす鬼畜展開と脅威の伏線回収率で話題になったNHK朝の連続テレビ小説『カムカムエヴリバディ』を、自分はしかし別の興味から見ていた。

 

 

 

 戦前からはじまる物語の中で登場人物たちは日本版『ラジオデイズ』よろしく事あるごとにラジオを聞いている。

 

 敗戦後、彼(女)等は確実に”GHQによる洗脳計画”たるWGIP、つまり『真相はかうだ』や『真相箱』を聞くにちがいない。それがどう描かれるのか。

 

 しかし主人公・安子(上白石萌音)はアメリカの空襲によって生家と家業とラジオを失い、幼い子を育てるためにそれどころではない。安子がラジオの声に触れるのは行商先の家の塀の向こうから聞こえる『英語会話』だけだった。

 

 思えば戦中戦後を描くことが多かったNHK朝の連続テレビ小説で、ラジオがあるような家が舞台だったとしても、それを聞くのは敗戦時の玉音放送、戦後は『赤いリンゴ』が流れる程度だった気がする。それよりも戦後の飢餓や貧困のなかで必死に生活する様が描かれていた。

 

 彼(女)等は何に、どうやって洗脳されたのだろう。

 

 主人公の安子は家族と家を空襲で失い、旦那を戦地で失い、戦争という情況を憎んでいただろう。しかしそれはラジオ番組を通してではなく現実の体験からだ。

 

 或る大学教授のツイートによれば、川平唯一による『英語会話』もGHQによる洗脳の一端だったという。でも…それこそそんな洗脳は効果がなかった証拠だよね、だって主人公以外の日本人はほとんど英語を喋れるようにはならなかったのだから。

 

 もうひとつ、興味深い設定があった。三代目の主人公である大月ひなたはチャンバラが好きで京都の太秦とおぼしき撮影所に就職する(彼女も英語の習得にはかなり苦労する)。

 

 復讐や仇討ちを良しとするチャンバラ映画はGHQが占領最初期に禁止したものである。しかし、チャンバラコンテンツはその時期を除けば一貫して日本人の娯楽であり続けた。今はBSや専門チャンネルで細ぼそと放映されるのみになったが、GHQの洗脳が遅延的に平成・令和の時代になって効果を発揮したのだろうか(江藤淳なら「そうにちがいない」と言いそうだが)。

 

 長くなりそうなので2に続く。