このブログにご訪問いただき有難うございます。

 

皆さん、いかがお過ごしでしょうか。

外に出てみると、花で溢れた時期が過ぎ、木々の緑が新緑で揺らめいていました。

さて、おじさんひとり語りもこの次で終章となります。

お付き合いいただき有難うございます。あと一息です。

 

 

薄暗い闇の淵に立って(ダークサイドに落ちる前に帰還したこと)その4の続き

 

翌朝、目覚まし時計もかけなかったが、4時に目が覚めた。

まだ重い二日酔い特有のだるさは残っている。

 

2月のこの時季の日の出はもう少し先のため自室は真っ暗だった。

起きてすぐ机に向かい、カバンから手帳を取り出し、

2月24日のところに、赤い字で大きなマルをつけた。

 

そして、昨日のWebサイトをもう一度最初から読み始めた。

『アルコール依存症じゃないけど、酒をやめたい』

 

昨日まで重くのしかかっていた黒い澱はまだ残っていたが、

薄い半透明なベールのようなものに変わっていた。

 

それ以外はいつもの生活。

ただ、その日から、酒をやめること、朝5時前に起床すること、そして

とぎれとぎれでこれまで続けてきた瞑想を毎日おこなうことが日課となっていた。

 

特に意気込んで生活を変えよう。断酒するんだといった、

前向きに何かをやってやろうといった気持ちではなく、

水の中に全身を沈めたときに感じる静けさが気持ちをずっと支配していた。

周りの事物が自分を素通りして流れていく。

 

唯一、新たな意志をもっておこなったのは、

飲み会のお誘いには、理由をつけて全て断ること。

どうしてもそういった場に出なければならない時でも、

アルコール類を一切口にしなくなった。

家でも酒があろうと、家族が酒を飲んでいようと気にならなくなっていた。

 

外面の行動だけ見たら、特に大きく変わっていないように見えたかもしれない。

淡々と日課をこなし、仕事をする毎日を過ごしていた。

 

しかし、自分の中では大きな変化が起きつつあったのである。

 

それは、酒をやめて、新たな習慣に切り替わった5月を過ぎてからである。

もう少しで3ヶ月が経とうとする休みの日。

いつもの通り、朝4時には起床していた。

その日は天気が良かったので、外に出てみる。

すでに朝の日差しが照りつける。

近所の公園に向かい、草花や木々の香りを楽しむ。

 

無心で朝の爽やかな空気に包まれていることを全身で感じている時、

突然、意識の中に広がる何かを感じた。

 

やっと分かった。

自分に巣食ってきた黒い澱の正体。

そして、あの事故の意味。

 

あの事故とは、転換を迎えた2月24日を遡る前年の11月中旬。

銀座の裏路地にある店で友人と飲んだあとに、接触事故にあったのだ。

 

その店は、銀座の目抜き通りからかなり外れたところにあった。

オーナーの趣味で日本酒や焼酎、国産ワインなど、普通の店には

置いていない酒を相当数揃えており、外装はバル風の気さくな雰囲気ながら、

料理も日本食をベースに洋風tasteも織り込まれた、酒飲みが満足できる

メニューが用意され、店員も馴染みでプライベートでも良く利用していた。

 

その日も日本酒を飲み、ワインを2本開けるなど、しこたま友人と飲んで

いつもの通り飲み直しと称して、最近行っていなかった古びたカウンターバーに

向かう。

 

人気の少ない路地裏をすり抜け、一歩通行の道路に出る。

左の角を曲がったところだ。

そこには大型のバンが路駐しており。友人と他愛のない会話をしながら、

バンの前を通り抜け、道路に出ようとした。

 

その時である。

何が起こったか分からない。

一瞬意識が飛んで、自分は路上に横たわっていた。

 

たまたま、その瞬間を目撃した人が警察に通報してくれたが、どうも、

大型のバンから道路に出た際に、急に右折をして侵入してきたバイクに、

自分と友人、そしてもうひとりの会社員が接触したのとのこと。

 

バイクに乗っていたのはアルバイトの学生で、バイト先に急いでいたらしい。

直接バイクに当たったのは自分だけで、自分がその衝撃で他の二人に接触したため、巻沿いになって倒れたとのことだった。

自分は一番衝撃が大きかったが、たまたま背負っていたバックがクッションとなり、危うく頭部が縁石に激突するのを免れた。

 

バイクに乗っていた学生、通報者、自分と転倒した3名は路上で警察の聴取を

受けた。警察からは救急車を呼ぶかとの確認があった。

 

改めて身の回りを確認する。

ワイシャツがボロボロに千切れていた。スーツの下もスネの部分が裂けている。

でも特に身体に痛みは無いように感じた。まあ衣類はしょうがない。大丈夫そうだ。

 

まだ終電前の時間だが、こんな状態じゃ電車にも乗れない。タクシーで帰ろう。

警察から連絡先が書いてある紙切れをもらい、救急車は必要ない。元気だと言って断り、バイクに乗っていた学生の名前と連絡先を書いてもらい。タクシーで帰った。

 

そのまま何もなければ、ちょっと怪我をしただけで終わるが、そうでななかった。

 

(最終回につづく)