いつもの時間でいつもの場所でいつもの君と話す会話はいつもとは違う音程で帰ってくる。
その音は心地よくは無いがとても心臓の中心に刺さる。
-光は無くて闇も無い(後編)
「は?え、明日?」
「うん、言わなくてごめん」
「いつから決まってたんだよ」
「一ヶ月前くらいに決めてた」
「なんで早くいわないの?」
「ごめん」
「100%直る手術なの?」
「6割みたい・・・」
「失敗したら完全な失明になっちゃうのにやるの・・・・!?」
「うん・・・・」
普段冷静・・・というかクールな由貴ちゃん段々熱を込めて声を荒げてるのが分かった。
しかもその荒げる方向が俺を思って荒げてくれてる。
また優越感に浸る。
今由貴ちゃんの頭の中は俺でいっぱいなんだ。
他は見えてなくてまっすぐ見てくれてるんだ。
暫く二人の足音と俺の杖の音だけが響く。
何も無い田んぼ道、本当に一つ一つの音が何時もよりも大きく、はっきり聞こえる。
由貴ちゃんの足音は凄く静か。
最近のいきがってる男子と違って足を引きずったりしなく綺麗に歩く。
歩く早さももっと早く歩けるだろうに俺に合わせてくれる。
由貴ちゃんから出される音はやっぱり全て綺麗だ。
女だと思って年頃にも淡い恋心を抱いた。
そして今日玉砕した。
普通なら男だと言う理由だけでもう駄目だと思うところだろう。
俺もそう思ってたしさっきまでも何度も何度も否定してた。
でも人間そんなに上手く切り替えられないみたいだ。
少なくとも俺はそうゆう人間らしい。
由貴ちゃんの静かな足音が止まる。
それに釣られて俺も足を止めた。
「由貴ちゃ・・・」
「少なくともまず最初に言ってくれると思ってた」
「・・・」
「勝手かもしれないけどそのくらいの信頼関係はあったと思ってた」
「それは!!」
「でもあんたにはそんな風に思ってもらえなかったのがショック!」
「由貴ち・・・」
「そうゆう大事な事は言ってよ!!」
「由貴ちゃん聞いて!」
段々怒鳴り声に近くなって感情をむき出しにしてくるのを必死で止めた。
こんな由貴ちゃんが初めてで本当にどうしていいか分からなくてこっちの意見を言いたくて止めたのもあるけど。
由貴ちゃんの息使いが荒い、早い、乱れてる。
そんな俺も杖を持つ手が震えていた。
暴走を止めて自分の感情をきちんと言えるか分からないけど・・・・頑張る。
俺は生唾を大きく飲み込み深呼吸をした。
「俺、由貴ちゃんのお荷物にはなりたくなかったんだ」
言葉は伝わっただろうか?
声は震えてなかっただろうか?
カツゼツ良く言えただろうか?
言葉を発してから数秒お互い空気を探り合ってたのかもしれない。
何も言わないで止まってしまった。
そこで蚊が鳴くような小さな声で声が聞こえた。
「んだよ・・・それ」
「俺さ、由貴ちゃんに惚れちゃったんだよね」
思った以上にすんなり出た。
さっきまであんなにぐるぐる考えてたのが嘘みたいにすっごくすんなり言葉に出てしまった。
でも言ってしまってからしまったと思ったがもう嘘つくのもアホらしくなってその時の俺は何も感じなかった。
「だから由貴ちゃんと肩並べたいと思ったんだ」
ここまで言うと由貴ちゃんが何か言おうと口を開こうとしてるのがぼんやり分かった。
でも言葉を選んでいるのか何度も何度も口を閉じて頭を掻いたり頬に手を当てたりしていた。
そりゃぁ困るよね、俺でも困る。
こりゃぁフォロー入れないといけないな。
「由貴ちゃん、返事貰おうと思ってないからね?」
「・・・え?」
「俺さ、別にホモじゃないのよ」
「そのカミングアウトだったら驚いてたけどな」
「由貴ちゃん女だと思ってたんだし」
「そこに繋がるのか」
「うん」
「おっぱいねーよ?」
「わかってるよ」
「そっか」
返ってきた声は何時もの落ち着いた由貴ちゃんだった。
でも心なしか口ごもってる・・・のかな。
「なんで手術するかって理由を知って欲しかったから言ったんだ」
「そっか」
「こんな不順な理由じゃ言いにくいじゃん」
「確かに言い難いかもね」
「だから俺頑張ってくるよ」
「・・・」
由貴ちゃんには悪いけど個人的には凄くすっきり。
全部ぶちまけちゃったからかな?
夕焼けがもう俺の視野じゃ分からないくらい消えていて黒い闇の世界に変わってた。
見えもしないのに天を扇いで見た。
今は凄く綺麗な星空が広がってるのかもしれない。
今はただの闇だけど・・・・。
「ねぇ」
「ん?」
「手術絶対成功しろよ」
「医者に言えよ」
「じゃあ、あんたが言っといてよ」
「俺かよ!?」
「成功したら最初に何したい?」
「由貴ちゃん見たい」
「ちょっと美容室の予約してくる」
「本気すぎじゃね!?」
ハハッと笑うと由貴ちゃんも確かにと言いながら笑ってくれた。
好きになったのが由貴ちゃんでよかった。
由貴ちゃんがどんな形であれ俺の事を受け入れて分かってくれてよかった。
俺の初恋は終わってしまったけど・・・・本当に良かった。
「あんたの手術が終わったらじゃぁ最高のプレゼント用意しとくよ」
「え!?まじ!?」
「失敗したら最悪のプレゼントも用意しとく」
「えー・・・」
「だから成功しろよ?」
「わかったよ、頑張る」
また二人でゆっくり歩き出して帰路を進んだ。
暫くお預けの帰路。
由貴ちゃんがくれるプレゼントはどんな物なのか予想して俺がそれを当てようと必死に何回も回答するがまったく当たらなかった。
由貴ちゃん曰く絶対あたらねーよと自信満々に言われた。
俺の入院の間の暇つぶしにさせてもらおう、当たったら1000円って賭けをして俺の家の前についた。
何時も通り「またな」って言ってお互い背を向けた。
暫く俺の好きな綺麗な声はお預けになってしまうがそれ以上の事が今日あってそれだけで俺は明日頑張れそうだ。
明日は俺に光が射しますように。