給水を断念したオレは「のどか村」をあとにする。
その少し向こうで道は二つに分かれていた。
右か左か・・・。
D「愛フォンさま、ぼくはどちらへ進めばいいのですか?」
 「そのまま、まっすぐ進みなさい。」
D「えっ?」
そういえば、確かにまっすぐ進む道もある。
だが、明らかに細く、山間を進む暗い道。
「・・・jusus」思わず天を仰ぐ。
お許しください。もうムリぽ。
直進はあきらめて、右か左か・・・。
大阪方面は九分九厘、左。
だが下り坂になっている右へ進むことにした。
すい~すい~と風を切って下っていく。
しかし幸せもつかの間、道は再び上り坂に転ず。
・・・。
D「愛フォンさま、この先はどうなってるのですか?」
 「圏外です」
D「えっ!なんですと!?」
それはマズい。非常にまずい。
こんな街灯もない山奥の道で、圏外!
あと少ししたら、完全に暗闇。死の予感。
・・・引き返すことにした。
つまりすい~すい~と下ってきた坂道を。

再び、のどか村。
今日が土曜日なら野宿も考えた。
しかし残念、日曜日。
「悲しいけど、コレ、日曜なのよね。」
仕方がない、戻ろう。
自転車を押して登ってきた坂道を、
敗北感にうちひしがれつつ、下る。

ずっと下ってきたが、まだ山の中。
来るときにクマ注意報を感じた林道の近くまで戻ってきた。
さすがにそこを下るのは無謀と感じた。すでに辺りは暗い。
林道のほうへは下らずに、道なりにまっすぐ。
また道は登り勾配へと変わった。
愛フォンを覗き込む。

ところで、みんな「等高線」って言葉、知ってるか?

等高線とは、地図の地形表現方法のひとつ。
山や谷などの地表の起伏を示す線。
同じ高度上の点の集まり(=線)、およびそれらが
ある一定の高度間隔でつらなった線群のこと。
(Wikipediaより)

オレももちろん知識としては知っていた。
しかし、この日、この瞬間、本当の意味で等高線を知った。
そして愛フォンのマップにも等高線があることを知った。
複雑に入り組んだ、その曲線から地形を読む。

この道をもう少し行けば、
この上り坂をのぼりきれば、
峠を越える!
ずっと下り坂が続いている!

果たして・・・。

道の最高点とおぼしきところに車が止まっていた。
その横に男と女。リ、リア充!
普段なら、心の中で「○○しろ!」と叫ぶところだが、
その日のオレは久しぶりに見た人影に、安堵だけを感じた。
喜びのあまり抱きつきたかった。ブラボー!
坂を登り切ると、二人の向こうに夜景が広がっていた。

街の明かりが、こんなにも綺麗に見えるなんて。

あの中の一つにカヘもあるのだろうか・・・。
まだ、僕には帰れるところがあるんだ。こんなに嬉しいことはない。

マップで確認したとおり、道はずっと下りだった。
じ、自販機が、ある!
「♪闇の中 ぽつんと光る 自動販売機」
やっと、やっと、渇きを癒せる。
ありがたい、生き返る心地がした。

ずっとずっと道をくだって、やっと平地に戻ってきた。
目の前に広がる川は、我が心のマザーナイル「大和川」

そこからの道のりは、もう語るようなことは何もなかった。
平坦な道をただ前へと自転車を走らせるだけ。
ふと顔に手をあてると、粉っぽい手触り。
塩?
いや、おそらく砂糖。
全身から糖分が抜けている。
はやく補充しない、と。

大阪市に入り、環状線をくぐり、一心寺を横目に、
坂をくだって松屋町筋。しばらく走って左折。
阪神高速の高架下をとおって、いつもの道。
最後の曲がり角を曲がる。
見えた!あの明かり!

「翼よ、あれがメルの灯だ!」