歯友というわけではないが、若い時からの友達でデンチャーの友達がいる。

人のことなのであまり詳細は言えないが、最初この友達から「部分入れ歯になった」と言われたのはまだ30歳くらいの頃だった。私も既に歯が悪い自覚はあったので、他人事には思えずその話に真摯に耳を傾けたものだ。

からっとした性格の人ではあるがそこそこ深刻な感じの話ではあった。

元々何でも話せる少ない友人であり、私もこの友達には唯一歯の話を赤裸々に話している。


この友達と数ヶ月ぶりに会って、顔を合わせてたぶん1分以内に「今度は左上の歯抜いたんだ!結局また歯なしになって!」と堰を切ったように一気にわーっと話した。

ちょっとびっくりしていたが、聞いてくれた。

一通り話すと割合すっきりした。私は秘密を抱えて生きていくのはかなり辛いと常々考えていて、この友達がいなかったら私の人生ははかなり孤独なものだっただろうなと思う。


歯の悩みはそれぞれで、友人はデンチャー以外の歯は問題ないみたいで目下の悩みは金具が笑うと見えることに終始している。

奥歯だしフルスマイルしないと見えないから気にするほどではない…と客観的には思いつつも、その悩みは痛いほどわかる。

友人にとってはインプラントの手術をする方がよっぽど嫌みたいで、私の歯抜けに関しても、「またトンカチ打つの!?怖いよー!」ってそちらの方が恐怖みたいだ。

私にとっては歯のない恐怖の方が手術でトンカチを打たれる恐怖に余裕で3周くらい上回っている。

と、ああでもないこうでもないと議論の末、いつも「マスク外せないね」という結論に落ち着く。

夏になっても絶対マスクする、と強い意志表明を聞き、そうだそうだ!と私も加勢する。我々は断固マスクを取らないぞ!

と言いつつ、翌日会社に行くと既にノーマスクの流れが来ていて結局不安に陥る…。


でも、やっぱりね、友人もよく「早くおばあちゃんになりたい」と言っている。私も然り。

歯のない悩みを抱えている人はもれなくそう考えるのだろうか。

早く歯がなくても恥ずかしくない齢になりたいと。

それがつまるところ本質ってやつなんじゃないかな。恥ずかしいっていう感情が。