【open world】
凍りついた 暗い歩道を
ゆらゆらと彷徨うように
おぼつかない足取りであちらこちら迷いながら
君は一人歩いていた
君の目に見えている世界は
僕が見ている世界の向こう側にあって
そこは薄い不透明なガラスで遮られてて
こちらからどれ程手を伸ばしてみても
どれ程声をあげてみても
届くことはなかった
決して届かなかった……
けれど
君はその小さな手のひらで
澄んだ賢い瞳を持って
自分の力で立ち上がっては
誰かの声を微かに聞き取り
何かの影を捕まえようと
ガラスに向かって体当たりをする
何度も
何度も……
薄いガラスの向こうに張り付いた手のひらは
僕と比べればとても小さくて
でも
呼んでいる
こちらへと
繋がりたいと
もうずっと
君の世界からは
いつからこちらが見えていたんだろう
ただ僕を求めて
歯を食い縛りながら
抗いながら
疑問と不安の海の底から
それでも僕の声を聴くために…
open the world
new world
そしていつしかガラスは粉々に割れて
君は僕の前を歩いていた
傷だらけの細い手足で
振り返った君は少し大人のように
僕に向かって微笑んでる
どうしてそんなに強いの
僕からは割れなかったガラスなのに
君は向かい風に立ち向かう
新たな世界へ足を踏み出して
僕の手を離して
もう「ありがとう」しか
僕の頭に浮かばないよ
世界を閉じたのは
僕の方だったのかな
そのまだ小さな背中を僕は見続ける
僕のところに君が降りてきた理由を
今更思い知りながら
※高機能自閉症、広汎性発達障害、或は自閉症スペクトラムを持つ2人の息子に※