他の人からすれば、それは何てことない自然な事だというだろう。

だが、私にとってそれは驚嘆する出来事であった。

私がしゃべれた、という事に対する驚きだった。


生まれながらに話せなかったわけではない。

ある時を境に自ら話さないようになったのだが、自分自身の声を聞いたのは久しぶりだった。

動物を見たことによる興奮の波がそうさせたのかもしれない。



まぁ、驚きつつも、久しぶりに出会った猫を 眺めていたのであった。


人通りはない。




”じぇにふぁ”

突如、頭に思い浮かんできた名前。


光と影

どこかで見た光景。



はっ、と我に返ると ”猫”がこちらを見つめていた。


硬直する私を横目に、猫は塀から優雅に降りて私の隣に着地した。

隣に降りてくるなんて、野生の動物が並大抵な神経で出来るものではない。

「じぇにふぁ?」


私は呼んでみた。

”猫”は何かを期待して、私を見つめているように見えた。


「にゃぁ 」

と、返事をして、嬉しそうに笑ったようだった。




(2007.6.16 一部改)