「ディア・ハンター」をデジタル・リマスター版で観る
「THE DEER HUNTER」(1978年)はオスカーの作品賞、監督賞、助演男優賞、編集賞、録音賞を受賞してるが、アメリカ資本ではなく英国資本(EMI)で造られた映画と言うことを、今回初めて知った。
監督マイケル・チミノのオーディオ・コメンタリーが良質の作品ガイドとなっている。
ロバート・デ・ニーロ、クリストファー・ウォーケン、メリル・ストリープたちの輝かしいキャリアがこの映画には刻まれている。映画評論家がつけいる隙をたくさん持っている映画で格好の餌食にもされたが、この映画に刻まれた真の感情は今みても色褪せない。
「ディア・ハンター」のテーマ曲(Stanley Myers)の弦の響きは、魂を癒す。
この映画は傷ついた魂の物語である。ウォーケンは無垢な魂でロシアン・ルーレットに象徴される戦争によって魂を破壊された。新婚のジョン・サベージも過酷な現実に精神を病み、身体を壊した。多くの若者たちが傷ついて最後に「ゴッド・ブレス・アメリカ」を歌う。アメリカが無邪気さを喪失した転換点に、この映画はあるような気がしてならない。
デ・ニーロは、新しい父性を象徴してるかにみえる。彼が帰郷して寝室で身体を揺すり頭を抱えるシーンは、今回見て心に響いた。
この映画は観た人々の人生に刻印された映画になったが、その後の監督マイケル・チミノの運命をかえた映画でもあった。次回作の「天国の門」は映画会社ユナイテッド・アーティストを倒産に追い込んだ。アメリカはこの映画を葬り去ろうとした。今でもこの映画は不当に扱われている。アメリカ人は自身の歴史の暗黒を許容する程、まだ大人になれていないということか。
「ディア・ハンター」の中に流れる時間は、ハリウッド映画の時間ではない。
つまり、ウソの時間ではないということだ。一夜の夢で現実を忘れさせるのではなく、覚醒を迫る物語。
「生きるか死ぬか傷つくか」、その三択しかない人生の極限のテーゼがこの映画にはある。
だからこそ、このテーマ曲は心に染み入る。