それからの天使は、だんだんといろんな事を覚えながら、エルムの友達とも遊んでいました。母ジェニーも、今は心配は薄らいでました。天使は、ほとんど自分が天使だということを忘れてました。
しかし、“それ”は突然に訪れました。自分は天使であり、永遠には人間界には居られません。それは、ちょうど芽吹き始めた頃でした。
「起きなさい、起きなさい。」
誰かが呼ぶ声がしたので、天使は目を開けました。
大天使「起きたか。これから言うことを、聞きなさい。」
久しぶりに聞く声に、天使は少し戸惑いました。
大天使「最初、おまえには罰ということで人間界に落としたが、罰というより少しでもおまえが成長するだろうという思いも込めて、人間界へ落としたんだ。
別に、騙した訳じゃない。まあ、ちょっと人間には迷惑をかけてしまったが。」
天使「ま、待ってください。何がおっしゃりたいんですか。」
大天使「おまえをそろそろ、天上界に戻そうと思ってな。」
天使「ま、待ってください。急すぎるではありませんか。それに、人間界に馴染んできたばかりです。このまま、ずっと居たら駄目ですか?」
大天使「おまえは、そのエルムという少年の体を借りている。それは出来ないんじゃ。それに、おまえがずっと居たらその子は、一生記憶…いや意識がないままになってしまう。だから、長くは居られんのじゃ。」
天使「では、エルムの数ヶ月の記憶とかは、どうなるんですか?」
大天使「大丈夫じゃ。それまでのことは、その子にとっては全部夢になるのじゃ。」
天使「?…………どういうことですか?」
大天使「時間は進んでると感じたのは、おまえ自身だけなんじゃ。その子も、周りの人間も、数ヶ月前の、そうおまえが落ちたところから、何事もなかったかのように普通に生活していくんじゃ。」
天使「じゃあ、私はエルムの夢の中で、暮らしていたんですか?」
大天使「いいや、確かにおまえは、人間界に溶けこんでいたんだ。しかし、おまえを天上界に戻すと同時に時間を切り取り、何事もなかったようにするだけじゃ。」
天使は、そうとうがっかりしました。人間に生まれ変わりたい、そう思いながら涙を流しました。
天使は、これまでのことを振り返りました。短い間に、色んな思いもしました。そして、ジェニーやケニーを始め、沢山の出会った人間に感謝しながら、祈り始めました。
大天使からの声が聞こえてきました。
大天使「いまから天上界におまえを戻すぞ、いいか。」
天使「はい。」
眩い光とともに、天使は天上界に帰っていきました。
大天使「どうじゃった、人間界は。」
天使「はい、人間界はとても狭いところですが、とても温かいところでもありました。天上界と同じ様にルールがあり、愛を育み、お金などというものは天上界にはありませんが、与えられたもの、限られたもので純粋に喜んだり、笑ったり。面倒なことも沢山あるけど、逆に嬉しいことも“その”数だけあることも知りました。」
大天使「そうか、よい勉強をしたようじゃな。こんなに成長するとは、思っても見なかったけどな。
1つ聞きたいんじゃが。」
天使「何でしょう。」
大天使「人間になりたいか。」
天使「いえ、最初はそう思いましたが、私は天の上から人間を見守ることにしました。」
大天使「あれほど、なりたいと思っていたのにか。」
天使「はい。人間がいとおしいと思うからこそ、天の上から見守りたいと思えるようになったんです。」
大天使「そうか。じゃあ、おまえに人間が争わないように、見守る役目をおまえに与えよう。」
天使「ありがとうございます。」
こうして、天使は人間を見守る天使となり、これからも天上界で暮らすことになりました。
-完-
※この物語はフィクションです。登場人物、出来事は実際とは関係ありません。