『One more again』 和泉ヒロト


プロローグ

2011年7月。

ありえないくらいの熱気が、アスファルトから立ち登って容赦なく俺の脚に纏わり付いていた。

直射日光が、俺の短くて黒い髪を焼く。

薄い革靴のソールを通して、かなりの熱が足の裏に伝わっていた。

黒いポロシャツの中は、汗が背中を伝って流れている。

顔に吹き出す汗をハンドタオルで押さえながら、気休めのように温くなったペットボトルの水を口にした。


「いつから東京は、こんなに暑くなったんだっけ……?」


俺は、そんな独り言をつぶやきながら原宿の竹下通りを独りフラフラと歩く。


「暑い……死ぬかも……」


フラフラの俺は、何かに導かれるように路地に入る。

そして当たり前のように、そのカフェの扉を開けた。


そうそれが、まるで予め決められた運命かのように……。





そのカフェには、初めて来た。

いかにも昭和な雰囲気のカフェで、いわゆる喫茶店と言ったほうがしっくりと来るかもしれない。

しっかりとした木のカウンターと、同じ素材で出来た小さな木のテーブルがいくつか。

そんなこじんまりとしたカフェだ。


俺は、マスターに奥のテーブルに案内された。

年の頃は40歳くらい?

茶色いエプロンに髭面だが、かなりのイケメンだ。


店内には、客が誰も居なかった。


流行ってないのかな?

そんなことを考えながら、俺はビロード張りの小さな椅子に腰掛けた。


程なく出された冷たい水を、一気に喉の奥に流し込む。

ふぅ……生き返る……。


そして俺は、冷たいオシボリで顔を拭った。

これは、男の特権だよな……。


そんなくだらないことを考えていると、俺の左耳に涼やかな声が飛び込んできた。

それは、まるで……今まで聞いたこともないほどの……美しい声だった。


ウエイトレス、か……。


俺は、ゆっくりと頷きながら一瞬目を閉じた。

声が美しい女に限って……ということは、往々にしてある。

今回もきっとそうなんだろうな……。


俺は、ゆっくりと目を開けてアイスコーヒーをオーダーしようとした。


「あ、じゃぁ……アイ……!」


俺は、ふと自分の左側を見る。


そこには……見たこともないような美しい女が立っていた。