9
やべ……詰んだ……。
俺は、正直そのときそう思った。
ルリちゃんに連絡を取る手段は、もうない。
そう思うと、急に胸が苦しくなった。
失うと思うと惜しくなる。
本当に、そう思った。
あっ、そうか……!
俺は、カウンターの奥で洗い物をするマスターを見る。
まだ、手段はある。
そう、あるじゃないか!
立ち上がった俺は、マスターのそばまで歩いた。
「マスター……あの……ルリちゃんの住所教えて欲しいんですが……」
「えっ……? あー、そりゃ無理だ。個人情報だし、教えられないな……」
「いや、でも、あの……教えてください……」
「絶対ダメだよ……申し訳ないけど、さ……」
マスターの言うことも、もっともだ。
冷静に考えれば、何者かも、どういう関係なのかも分からない男に……。
女の子の住所を教えるなんて有り得ないだろう。
もしかしたら、諦めろってことなんだよな……。
そうだよな……。
その時の俺は、明らかに弱気になっていたんだ。