29
「エンジェル! エンジェル!」
俺は、ただエンジェルの名前を呼ぶことしか出来なかった。
俺の腕の中のエンジェルは、もう……薄っぺらい灰色の……半透明な姿でしかなかった。
エンジェルは、もう言葉も発することが出来なくなっていた。
それでもエンジェルは……俺に向かって一生懸命に微笑みかけようとしていた。
エンジェル……本当に行ってしまうのか……?
俺は、やっと出逢えたのに……本当に愛せる人を……。
そのときエンジェルの声が直接、俺の頭のなかに響いて来た。
「ユート……ありがとう……あたしを忘れないで……ううん……忘れても良いよ……」
「なに言ってるんだよ……俺はエンジェルとずっと一緒に居たいよ……」
「……ユート……幸せになって欲しい……愛する人は、きっと見つかる……」
「エンジェル! 行くな! エンジェル!!」
エンジェルのカラダは、まるでガラスが砕けるようにバラバラに割れて弾けた。
そして、砂が風に吹き飛ばされるように……キラキラと輝きながら、消えて行った……。
俺は、もう声も出せずに……ただ呆然と立ち尽くしていた。
エンジェルが居ない世界なんて……生きている意味なんて無い……。
溢れ出す涙をそのままにして、俺は大声で叫んだ。
「エンジェル……俺は、お前を諦めない! 絶対に見つけてみせる!」
何のアテもなく、何の意味も無いことなのかもしれない。
だけど俺は、そう強く思った。
そのとき突然、カラダが押しつぶされるように重くなる。
真っ暗な穴に落ちたように、視界が黒く塗りつぶされて行く。