100(完結)


絢音(あやね)は、詩子(うたこ)に言った。



「詩子がしようとしていることは、菜摘にとって良いことだとは思えないよ……」



しかし詩子は、どうしても菜摘を治したかった。


だから、菜摘が自分自身で強く印象に残っているはずの……花束少女を詩子は演じたのだ。



奏(かな)が一年ぶりに日本に帰って来た、このタイミングで……。


詩子は、一気に菜摘に真実を全て打ち明けることにした。



それは、以前よりも菜摘が落ち着いてきたことが理由でもあった。


しかし、それは……創としての……。



奏、絢音、詩子の気持ちは同じだった。



なんとかして、菜摘を元に戻したい……。


それは、間違いのない事実だった。



そして、それは……。




意識を失った菜摘に、奏が毛布を掛けてやる。


絢音が、菜摘の短い髪を優しく撫でる。


そして詩子が、菜摘の頬に優しくキスをした。



3人の想いは、きっと同じだった。


それは……菜摘を幸せにしたい、ということだ。



「菜摘は……もしかしたら、元には戻らないかもしれないよ……」と、絢音が言った。


「……もしも、菜摘が創であることを望んでいるとしたら……」と、奏が言った。



「菜摘ちゃんは、今のままが一番幸せなのかもしれないよね……」



詩子が、菜摘の寝顔をじっと見つめながら言った。



「サヨナラ……菜摘ちゃん……」



それはまるで、独り言のように……。



そのとき、菜摘は……いや、創は……。


確かに、幸せそうに微笑んでいた。



そう、確かに……。





エピローグ



「おい、早くしろよ! 仕事遅れちゃうぞ!」


「あぁ……うん! ごめん!……ありがとう、創……」



そう言いながら、詩子は恥ずかしそうに笑う。



そんな詩子を優しく抱きしめながら、創は感じていた。



俺は、もう詩子を離さない……。


何があっても、詩子を幸せにするんだ……。



創は、いつも何かに追われるような不安を感じて来た。


何か、大切なことを忘れているような……。



でも、それが何なのかをずっと思い出せないでいる。



でも……まぁ、いいか……。




創は、詩子を選んだ。


そして詩子は、創になった菜摘を……いや、創を捕まえた。



「行こう! 創! ほら、早く!」


「待てよ、詩子! するいぞ、全く……」



創と詩子はふざけ合いながら、ふたりで暮らす部屋を飛び出す。



手を繋いで、一緒に駆け出しながら詩子は感じていた。



幸せのカタチなんて、きっと自分にしか分からない。


大切なのは、自分が幸せかどうかなんだ……。



周りのことなんて、関係がない。


自分自身が誇れること……それで良いんだから……。



笑い合うふたりを、8月の太陽が眩しく包んでいた。


暑く、激しく……しかし、それは、きっと優しく……。




『君はサヨナラと言った』





2010.8.13


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