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そのとき絢音(あやね)は、今まで俺に見せたことのないような表情をしていた。



えっ?



俺は、そんな絢音の真剣な表情に違和感を覚える。



いや、それは……違和感というか……不安感というか……。


それは今までに俺が、絢音に対して感じたことのない感情だった。



絢音のことが、まるで知らない女のように思える。



それは、俺にとってとても不安なことだった。



絢音は、落ち着いた声で俺に言った。



「あたしは……創を救おうとした……でも……」


「……でも? でもダメだった、って言いたいのか?」


「違うよ……でも……そうなのかもしれないね……」



絢音の顔が、一瞬曇る。


しかし、またすぐに冷静な表情になった。



「あたしが創に出逢った時のこと、憶えてる?」



えっ?



予想もしなかった絢音の言葉に、俺は更に不安感を募らせる。



そう、だってそれは……。


明らかに計算されたことだった、という意味だから……。



俺は、絢音と出逢ったときのことを思い出そうとした。


しかし……!?



俺は、どうやって絢音と出逢ったのだろう?



思い出せない……。


いや、もしかしたら……。



俺は、冷静な絢音の顔を見つめながらイヤな汗をかいていた。