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言葉を詰まらせた奏(かな)は、スゥっと息を吸った。
そして、ゆっくりと言葉を続ける。
「あたしは……逃げ出したんだよ……創を裏切って……」
「奏……いや、それは俺のせいだよ……」
奏は、潤んだ瞳で俺を見つめていた。
そして、ゆっくりと首を左右に振りながら言葉を続ける。
「あたしは、創を信じ切れなかった。苦しくて、辛くて……そして逃げ出したの……」
「俺が悪いんだよ、奏……俺は俺自身を奏に信じさせることが出来なかったんだから……」
奏は、激しく首を左右に振る。
俺のシャツにすがりつくようにして、カラダを震わせていた。
「ごめんね、創……あたし、どうかしてた……」
「……うん? 何が……?」
「だって……あたしがお願いしたんだ……」
「……もしかして、死んだことにしたっていうこと?」
「……そう……絢音にも、詩子にも……頼んだんだ……」
「そう、か……」
俺は、不思議と冷静だった。
奏が生きていた。
そのことには、本当に驚いた。
だけど、それも今となればごく当たり前にように感じられる。
現実を理解すれば、あっという間にそれが普通のことのように感じられるものだ。
それよりも、俺は……。
なぜ絢音が消えてしまったのか、ということを考え始めていた。
絢音は、いまどこにいるんだろう……?