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あの日の、朝……俺は奏(かな)と激しい言い争いをした。



理由は、そう……奏が浮気をしたからだ。



いや、それは……確実に証拠があったわけではない。


ただ奏は、また連絡もなしに一晩帰って来なかったから。



だから俺は朝帰りした奏に、その理由を問い詰めたんだ。



「どこに行ってたんだ? 」



俺の問いかけに、奏は口を開こうとしなかった。



「そうか……もう、いいや……」



俺の言葉を聞いた奏は、激しく俺を罵り始める。



「創だって、他に好きな子が居るじゃない!」



カッとした俺は、同じように奏を罵った。



「誰と一緒だったんだ? どこで何をしてたんだ!?」



いま考えれば、バカなことをしたと思う。



俺たちは結局……お互いを信じられなかった。



そして、何よりも……自分の気持を溜め込んでいた。



それは、いわゆるコミュニケーション不足だった。



お互いの気持をぶつけることもせず、ただ疑心暗鬼を生じていた。



そして、それから二度と奏は戻って来なかった。



俺は……奏が自分で命を絶ったと聞かされた。


そして、それを信じた。



俺は、自分を責め続けた。


俺のせいで、奏は……。



そして、俺は……きっと、自らの記憶を消したんだ。



だって、耐えられないほどに……それでも俺は、奏を愛していたから……。