73
あの日の、朝……俺は奏(かな)と激しい言い争いをした。
理由は、そう……奏が浮気をしたからだ。
いや、それは……確実に証拠があったわけではない。
ただ奏は、また連絡もなしに一晩帰って来なかったから。
だから俺は朝帰りした奏に、その理由を問い詰めたんだ。
「どこに行ってたんだ? 」
俺の問いかけに、奏は口を開こうとしなかった。
「そうか……もう、いいや……」
俺の言葉を聞いた奏は、激しく俺を罵り始める。
「創だって、他に好きな子が居るじゃない!」
カッとした俺は、同じように奏を罵った。
「誰と一緒だったんだ? どこで何をしてたんだ!?」
いま考えれば、バカなことをしたと思う。
俺たちは結局……お互いを信じられなかった。
そして、何よりも……自分の気持を溜め込んでいた。
それは、いわゆるコミュニケーション不足だった。
お互いの気持をぶつけることもせず、ただ疑心暗鬼を生じていた。
そして、それから二度と奏は戻って来なかった。
俺は……奏が自分で命を絶ったと聞かされた。
そして、それを信じた。
俺は、自分を責め続けた。
俺のせいで、奏は……。
そして、俺は……きっと、自らの記憶を消したんだ。
だって、耐えられないほどに……それでも俺は、奏を愛していたから……。