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リビングの窓際には、ソファーがある。



さっきまで、俺が詩子と一緒に居た場所だ。



そこには、ひとりの女が座っていた。



無表情で、俺をじっと見つめている。



俺は、その姿に驚愕する!



一瞬にして、ゾクゾクっと背中が凍りついていた。



そこに居たのは……奏(かな)だった。



まさか!


でも……どうして!?



俺が見ているのは、幻なのか?



これは……奏の幽霊……!?



いや、でも……。



そのとき奏が、ゆっくりと口を開いた。



「久しぶりだね、創ちゃん……」



そう言って微笑んだ奏は、あの頃の奏だった。



いや、あの頃とは少し違っている。


髪も伸びて、表情も明るく見える。



無意識に歩み寄った俺は、奏の肩に恐る恐る触れる。


暖かくて、柔らかい。


それは、俺が知っている奏だった。



奏は……死んでいなかったというのか!?



ということは、詩子が嘘を……?



そのとき俺は、奏が消えた日のことを鮮明に思い出し始めていた。