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俺は、考え続けていた。



ただ、確かに今感じていたのは……。


俺は、間違いなく奏(かな)を愛していたという事実だ。



奏は……死んでしまったのか……。



しかし俺は、意外なほど胸が痛む事はなかった。



どうしてなんだろう……。


それも分からない……。



そして、俺が駅前で見たのは……。


奏の……幽霊なのか?



そんな、バカな……。



そして、奏に対してと同じか……もしかしたら、それ以上に……。


俺は、絢音を愛していたんだ。



そのことを、俺は感じていた。



俺は、目の前に居る詩子を見つめる。


きっと、すがるような視線で……。



きっと詩子は、何かを知っている。


だからこそ、俺に逢いに来た。



俺は、そう確信していたんだ。



「詩子……どうして俺に逢いに来たんだ?」



詩子は、そのとき俺から一瞬目を逸らした。



しかし、覚悟を決めたかのように……。


詩子は俺を、真っ直ぐに見つめ直した。