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「この部屋は……奏(かな)ちゃんがいなくなった日のまま残しているの……」



俺は、その言葉にショックを受ける。



じゃあ……あの日、俺が見たのは誰だ……?



いや、あれは……間違いなく奏だった……!?



俺は、目の前が真っ白になるのを感じていた。



そして、その時……俺は、全てを思い出していた。



あの日、奏は……部屋を飛出して帰って来なかった。



いつものことだ……。



俺は心配しながらも、そう思い込もうとしていた。



朝になれば、きっと奏は帰って来る。


そう信じようとした。



その頃、俺は……奏と半同棲のような生活を送っていた。



この部屋にも……俺は、来たことがある……。



頭の中から溢れ出すように、様々な思い出が噴き出す。



忘れようとしていた記憶が、容赦なく噴き出して来る。



あの日、俺は……悪い予感がしていた。



もう奏は……戻って来ないのではないか……?



そんな予感が、ずっと……。



帰って来ない奏を置いて、俺は仕事に行った。



胸騒ぎがする……しかし、それだけで会社を休むわけにはいかなかった。



午後4時を過ぎた頃、俺のケータイが突然振動を始めた。



それは……絢音からのメールだった。