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そのとき俺は、何故か自然と奏(かな)を受け入れてしまった。
ふたりでカフェを抜け出して、夜道をふたりで歩く。
俺たちの手は、いつの間にか繋がっていた。
六本木方面へと、歩く。
甘えるようにして歩く奏が、とても愛しく思えた。
俺は、古いOMEGA SeaMasterを見る。
針は、午後10時半を示していた。
「ねぇ、どこかへ連れて行って……」
そう囁いた奏に、俺はゆっくりと頷く。
路面のコインパーキングに入れておいた、赤い2000年式ポルシェ・ボクスターSに乗り込む。
普通の女なら、この車に興味を示すハズだが奏は違っていた。
レカロの革張りシートに腰を沈めたまま、奏はじっと俺を見つめるだけだった。
俺は奏の黒目がちな大きな瞳の奥に、悲しみの色を感じ取っていた。
そして、少し潤み始めた奏の瞳に引き寄せられるように……。
俺は、優しく奏の唇を奪う。
「……タバコの匂い……好き……」
キスの合間に、奏はそう呟いた。
俺は、夜の街にポルシェを走らせる。
ヒルズを左手に見ながら、六本木のトンネルをくぐって乃木坂へと抜ける。
「どこに行きたいんだ? 奏……」
「……波の音が……聴きたい……」
国道246号線へと左折して、渋谷から首都高に乗る。
そのまま東名を経由して、俺は海を目指した。
俺は、そのとき間違いなく奏を愛していたはずだ……。
それなのに、どうして……。