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絢音のことを忘れられないが、それでも俺は詩子に心を奪われていた。
絢音も詩子も、俺を置いて消えてしまった。
だけど、ふたりには決定的な違いがある。
絢音とは、もう逢うこともないのだろう。
だけど、詩子は違う。
俺は、キョロキョロしながら詩子の姿を捜す。
まだいない、か……。
そのとき、誰かが俺の肩を後ろからトントンと叩いた。
「こんばんは、創さん……」
振り返ると、そこには詩子が恥ずかしそうに立っていた。
白いミニスカートに、ニーソックス。
薄いブルーのブラウスが詩子の雰囲気に良く似合っていた。
「詩子……逢いたかった」
いつの間にか俺は、そんな言葉を呟いていた。
俺の黒いペイズリー柄のシャツの袖を、詩子が優しくつかむ。
俺は左手で詩子の肩をゆっくりと抱いて、右手でクシャッと髪の毛を撫でた。
恥ずかしそうに俺を見上げる詩子の瞳は、少し潤んでいた。
俺は、何も言わずに詩子の頬を右手の人差指でツンツン突く。
思わず微笑んだ詩子は、とても美しい。
「どこに行く? ゆっくり話がしたい……ふたりで……」
そう言った俺に、詩子はこう応えた。
「少し歩くけど……ふたりっきりになれる場所があるよ……」
そう言って詩子は、真剣なまなざしで俺をじっと見つめた。