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琴音に、何があったのだろう?



ゆっくりと琴音の腕を振りほどいて、俺は琴音に向かい合う。



そして、ゆっくりと琴音を抱きしめてやった。



俺は久しぶりに嗅ぐ、琴音の匂いを懐かしんでいた。



俺の好きだった匂い……。


でも、それはもう過去の話だ。



そんなことを、わりと冷静に思いながら俺は琴音の髪を優しく撫でた。



琴音を恨んでいるはずだった。


しかし、それは琴音を深く愛していた裏返しの感情だ。



でも、俺はそれでも琴音のことを諦めていた。



琴音が俺の元を去ってから、すでに一年以上という時間が流れたのだ。



この一年は、琴音を忘れるために過ごした。


それは、やはり俺が琴音のことを愛していたからに違いない。



しかし、今俺の目の前に居る琴音は……。



俺が愛した琴音とは違う女に思えた。


その事実に、俺自身も戸惑っていた。



「何か話があるんだよな、琴音……」


「……謝りたかったの……トモに……」



そう言って琴音は、ポロポロと涙をこぼし始める。



そんな琴音の姿を見ても、俺は何故か冷静で居られた。



何を俺に謝ると言うのだ……。



俺は少し呆れながら、それでも優しく琴音を抱き締めている。



何やってんだろ、俺……。


それほどまでに、俺は冷静だったんだ。