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部屋に帰ってしばらくすると、呼び鈴が鳴った。



来た、か……。



ソファーから立ち上がった俺は、ゆっくりと玄関に向かう。


カチャっと鍵を開けて、ドアを開く。



そこには、ずっと逢いたかった琴音の姿があった。



琴音……。



1年ちょっとの間逢っていなかったが、琴音の姿は変わっていなかった。


俺と一緒に暮らしていた琴音と、同じだ。



俺は少しだけホッとした気分で、ぎこちなく微笑む。


琴音は、目を伏せたままドアの前にたたずんでいた。



「入れよ、琴音……」


「……うん……」



遠慮気味に、琴音が部屋に入ってくる。



俺は、そんな琴音の姿をじっと見つめていた。



マジで何かあったのかな……。


そんな弱々しい琴音を見るのは始めてだった。



でも、もう関係ないんだよな……俺には、もう……。



変な期待をしても仕方がない。


俺と琴音は終わったんだ。



俺はそんな思いを感じながら、琴音に背を向けてゆっくりと部屋の奥へと向かう。



そのとき、琴音がゆっくりと俺の背中に抱きついた。



えっ?



突然の琴音の行動に、俺は動揺する。



俺の胸の前で組まれた琴音の腕が、ゆっくりと俺を抱き締めていた。