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千尋の息が、荒くなるのが分かる。



俺は左手で優しく千尋の髪を撫でながら、右手で千尋の左手をつかむ。



「……智樹くん、好き……」



千尋の甘い声に、俺の気分も盛り上がっていた。



でも俺は、千尋の唇を奪いながら迷っていたんだ。



いま千尋を抱いてしまっても良いのだろうか、って……。



「千尋……俺は、お前が好きだ。だから……大切にしたいんだ……」



千尋は、俺の言葉を真剣に聞いていた。


そして、ゆっくりと口を開く。



「……ありがとう、智樹くん……私も大好き……」



俺は、千尋をギュッと抱き締めながら考えていた。



俺たちは、もっとお互いを知った方が良い。



千尋とカラダの関係から始まるなんて、嫌だ。



でも、本当は……俺は怖かったのかもしれない。


千尋が大切が故に、いいかげんな気持ちで千尋を抱きたくなかった。


だから……。



俺と千尋はベッドに横たわりながら、いろいろな話をした。



あの頃の話、あれからの話……。


時間は、あっという間に過ぎて行く。



「なぁ、千尋……今、お前には好きな男は居ないのか?」


「……居ないよ……智樹くんこそ、どうなの……心配だよ……」



俺は、ひとつ息を吐いて言葉を続ける。



「お前が良いよ、千尋……」



俺は、千尋を愛したい……。



そのときの俺は、確かにそう決心していたんだ。