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そのとき千尋は、真剣な表情で俺にそう言った。



千尋の、そんな表情は前に一度見たことがある。


それは……確か、千尋がカフェのバイトを辞める直前のことだった。



あのとき千尋は……バイトが終わった後、なぜか俺をじっと見つめていた。


何か言いたげな表情で……。



「んっ? どうした、千尋?」


「えっ、あっ、何でもないよ、先輩……」



そう言った千尋が、その後に見せた表情……。


それは、それまで俺が見たこともない千尋の表情だった……。



あのとき千尋は、俺に何か言いたかったのだろうか……。



そして、今も……。



俺はスゥっと息を吸って、千尋を見つめ返す。



「伝えたかったことって……何、千尋?」



千尋もひとつ息を吸って、ゆっくりと口を開いた。



「あの時、わたし……先輩のことが好きだった……だけど……」



千尋の顔が、一瞬曇る。



そして千尋は、俺の目をじっと見つめ返して言葉を続けた。



「あのとき……わたしは、もう先輩と一緒に居られないって思ったの……」


「……どうして? 千尋……」



千尋の告白に、俺の心は揺れていた。



千尋は……やはり、俺が好きだったのか……。



「それは……先輩には好きな人がいるって知ってたから……」



千尋……。



あのとき俺には、彼女なんて居なかった。



それなのに、どうして……?