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俺と千尋は言葉も交わさずに、ただ表参道を歩いた。
まるで、あの頃に戻ったように……俺はドキドキしていた。
そう、10代のあの頃のように純粋に……。
千尋と手をつないだのは、実は初めてだった。
あんなに仲が良かったあの頃だって、一度も手をつないだことはなかった。
俺は、どちらかというと恋愛に疎かった。
積極的に女の子と遊ぶこともしなかったし、合コンにも参加しなかった。
もちろん興味がない訳ではないが、それよりも他に楽しいことがあったからだ。
それは、バンドだったり大学のゼミだったり……。
いろいろなものに興味を示して手を出すという、そんな余裕が無かったのかもしれない。
そんな生活の中で、あの頃一番身近だったのが千尋だった。
ただし、俺は千尋を恋愛対象として見たことはなかった。
それは、千尋がぽっちゃりしていたということではなくて……。
千尋が、あまりにも俺にとって自然な存在だったからに違いない。
そんな千尋と、こんなふうに手をつないで歩いている……。
そのことが嬉しくもあり、でも俺は複雑な心境だった。
こんなに簡単に手をつないでしまうなんて……。
俺は、汚れてしまったな……。
そんなことを考えながら、俺は独り苦笑いした。
あの時……千尋は、突然カフェのバイトを辞めた。
俺は千尋の連絡先を、知っていたわけではない。
そして、千尋がバイトを辞めた理由も知らなかった。
あのとき、俺は正直かなり残念だったと思う。
もう、千尋と話せないことが……。
でも、忙しく過ぎる時間がそんな感情を薄めて行った。
それが忘れかけていた、俺と千尋の関係だった。