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「……ちょっと訳があってね……ごめんなさい……」


「うん? そう、か……まぁ、いいけど……でも、心配したよ」


「ありがとう……」



綾乃は、そう言って優しく微笑んだ。



まぁ、いいか……。


言いたくなければ、無理に訊くこともない。



言いたくないのは、きっと何か訳があるのだろう。



俺は、優しく綾乃の瞳を見つめた。



綾乃は、少し恥ずかしそうに俺の目を見つめ返す。



俺は、その時とても幸せな気持ちだった。



そして、強烈に綾乃が欲しくなっていた。



綾乃を、絶対に俺のものにしたい……。



湧き上がる、そんな感情を俺は笑顔で包み隠す。



それから俺たちは、いろいろな話をした。



綾乃は、若く見えるが……俺よりも年上だった。


俺よりも2つ年上だ。



俺は、来年三十歳になる。



二十代最後の年は、華やかに過ぎて行くのだろう。


様々な違ったタイプの女と出逢って、違った時間を過ごす。



その一瞬が幸せであれば、俺はそれだけで良かった。



だけど……。


それはそれで、悩みのタネを抱えるということだ。



俺は、誰を愛しているのだろう?



茜か、凛か……それとも、琴音か……。



いや、綾乃なのかもしれない……。