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「えっ……あぁ……」
俺は、マヌケな声で応える。
綾乃は、ニコニコしながら弁当の箱を開ける。
赤米と黒米のおにぎり。
おかずは筑前煮だった。
その弁当の中身は、俺と全く同じだった。
「あ……同じだ……」
俺のそんな声に、綾乃はクスクスと笑い出した。
「ホント、すごい偶然! たまたま隣に座ったら、お弁当も同じだなんて!」
「うん、確かにな……すごい偶然だね!」
俺は綾乃の笑顔に釣られて、自然と笑っていた。
なんか気持ちのいい子だな……。
俺は、自然とそんな風に感じていた。
「あっ、ベンチ空きましたよ! 行きましょう!」
綾乃が俺のスーツのジャケットの袖を引っ張る。
俺は苦笑いしながら、綾乃の後に続いた。
俺と綾乃は、隣り合ってベンチに腰掛ける。
空は青くて、日差しはポカポカ暖かい。
「あぁ……こんな日に外でお弁当なんて最高!」
綾乃は屈託のない笑顔で、俺にそう言った。
「うん、そうだね……ところで、君のお名前は?」
「あぁ、ごめんなさい! 綾乃です! 苗字は、内緒ってことで……」
「なんだよ、それ……じゃあ、俺は……智樹。苗字は内緒ってことで……」
綾乃は楽しそうに笑いながら、俺の目をじっと見つめていた。