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「あっ……」
そのとき茜は、恥ずかしげにそんな声を漏らした。
俺は、茜の耳元で囁く。
「俺を探していたのか?」
茜は、消え入るような小さな声でこう言った。
「……そう……逢いたかったの……」
可愛い子だ……。
「俺も茜に逢いたかった……本当に……」
そのとき茜は、本当に可愛い笑顔を俺にくれた。
辺りは、すでに薄暗くなりはじめていた。
俺は、茜の手を引いて新宿副都心へと歩く。
少し早いが、茜と夕食を取ることにしたのだ。
茜の歩くスピードは、当然俺よりもかなり遅い。
俺は、意識して茜のスピードに合わせて歩いた。
茜は、じっと俺の横顔を見つめていた。
俺は茜の視線を感じながらも、それに気づかないフリをしていた。
高層ビルのエレベーターには、俺たちしか乗っていなかった。
エレベーターは、かなりのスピードで上がっていく。
しかし、52階に到着するまでには少し時間がかかる。
俺は、茜の大きな瞳をじっと見つめる。
恥ずかしそうに俯いた茜を、俺はゆっくりと抱き締める。
そして、茜の耳元で優しく囁く。
「初めて逢ったときから、ずっと茜が欲しかったのかもしれない……」
驚いて俺の顔を見上げた茜の唇を、俺は優しく奪った。