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そんなお母さんの顔を見た俺は、葛藤していた。



本当のことを伝えなければならないのではないだろうか、と……。


しかし、今の俺は……そうすべきではないと判断していた。



本当に申し訳ないと思う。


だけど、俺には……。



それに、娘をひとり失ったのは間違いのない事実なんだ。


離れて暮らしていたって……カレンという存在を失ってしまったのだから……。



リビング案内された俺は、ワインレッド色をした革張りの高級そうなソファーに腰を下ろす。



カノンのお母さんは、暖かいミルクティーを持って来てくれた。



俺は複雑な気持ちで、お母さんに話を訊く。


それでも、事実を確かめるために。



「あの、カレン……とは一緒に暮らさないんですか? カレンは……娘さんですよ、ね……」



お母さんは、悲しそうな表情で俺に言った。



「……そうなんですが……あの子は私が手放してしまった子ですし……それに……」


「…………」



お母さんの言葉に、俺は何も言えなかった。


そしてお母さんは、ゆっくりと言葉を続けた。



「あの子は、私たちと一緒には居たくないようなんです。だから……」


「そう、なんですか……」


「エリちゃんには迷惑を掛けてしまうけど……そのほうが良いようなんです……」



俺は、どうしようかと迷っていた。


でも……確かめなければ……。



「あの……カノンさんが残した日記があると思うんですが……それを見せていただけないでしょうか?」


「日記、ですか? あの、カノンが残した日記を?」


「はい……どうしても確かめたいことがあって……」