79


俺が向かったのは、巣鴨にあるカノンの実家だ。


エリに訊いて、住所を教えてもらった。



その家は、少し古いが手入れが行き届いてる大きな一軒家だった。


俺は呼び鈴を押して、大きなドアの前で待つ。



しばらくすると「はーい、どなた様……?」という声とともにドアが開かれた。



目の前には、カノンのお母さんが立っていた。


確かめなくても、カノンに良く似ていた。


まだ40代だろう……きれいな人だった。



しかし、ひと月前に娘を亡くしたばかりの母親だ。


さすがに、疲れた表情を見せていた。



カノンは生きています!


そう伝えたかったが、それは言わない方が良いのだろう。



カノンが選んだこと……カレンとして生きること……。


カノンのその気持を、俺が勝手に裏切るわけには行かないから……。



「初めまして……あの、ぼくは……カノンさんの友人で斉藤と言います……」


「まぁ、カノンのお友達なのね! どうぞ上がって! カノンに会ってやってください……」



そう言って、お母さんは俺に家に上がるように勧めた。



「はい……じゃあ……」



俺は、そう言って家にお邪魔することにした。



居間の奥には、小さな仏壇があった。


そして、そこにはカノンの遺影がある。



俺は仏壇の前に正座して、線香に火を着けさせてもらう。


両手を合わせて、目を閉じる。



俺は、その時あの日のカレンの笑顔を思い出していた。


開けた目からは、少しだけ涙が零れた。



「ありがとう、ございました……」



振り向くと、お母さんが頭を下げていた。


泣き笑いのような、そんな悲しい表情で……。