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俺が向かったのは、巣鴨にあるカノンの実家だ。
エリに訊いて、住所を教えてもらった。
その家は、少し古いが手入れが行き届いてる大きな一軒家だった。
俺は呼び鈴を押して、大きなドアの前で待つ。
しばらくすると「はーい、どなた様……?」という声とともにドアが開かれた。
目の前には、カノンのお母さんが立っていた。
確かめなくても、カノンに良く似ていた。
まだ40代だろう……きれいな人だった。
しかし、ひと月前に娘を亡くしたばかりの母親だ。
さすがに、疲れた表情を見せていた。
カノンは生きています!
そう伝えたかったが、それは言わない方が良いのだろう。
カノンが選んだこと……カレンとして生きること……。
カノンのその気持を、俺が勝手に裏切るわけには行かないから……。
「初めまして……あの、ぼくは……カノンさんの友人で斉藤と言います……」
「まぁ、カノンのお友達なのね! どうぞ上がって! カノンに会ってやってください……」
そう言って、お母さんは俺に家に上がるように勧めた。
「はい……じゃあ……」
俺は、そう言って家にお邪魔することにした。
居間の奥には、小さな仏壇があった。
そして、そこにはカノンの遺影がある。
俺は仏壇の前に正座して、線香に火を着けさせてもらう。
両手を合わせて、目を閉じる。
俺は、その時あの日のカレンの笑顔を思い出していた。
開けた目からは、少しだけ涙が零れた。
「ありがとう、ございました……」
振り向くと、お母さんが頭を下げていた。
泣き笑いのような、そんな悲しい表情で……。