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俺は、エリの部屋を後にした。
俺には、知らなければならないことがあったからだ。
もちろんカノンのそばに居てやりたかったが、今は離れていた方が良さそうな気がしていた。
エリが居てくれるから大丈夫だろうしな……。
考えてみれば、エリには分かっていたのかもしれない。
ひとの心を読めるエリは、カレンとカノンふたりの気持ちを知ってしまった。
だからこそ、ふたりのことをずっと気に掛けていたのだ。
そして……俺の未来も……エリは知っていた。
それは……ユウナの俺への愛なんだ……。
偶然なのか、運命なのか分からないが……俺はカノンと名乗ったカレンに出逢ってしまった。
そして俺は、そのカレンに恋をした。
もしかしたらユウナのことを乗り越えられるかもしれないほどに、純粋に……。
だからエリは、このタイミングで俺にカノンを逢わせたんだ。
予告された、この運命のタイミングで……。
隣の部屋に居たカノンは、スースーと静かな寝息を立てていた。
その姿が、とても愛しい。
カノンがどこかに消えてしまった訳ではない……。
そのことだけでも、俺は少しだけホッと出来たのだ。
カノンには……ユウナの時のように、突然消えて欲しくない……。
もう……絶対に……。
下北沢の駅へ向かって、俺はゆっくりと歩く。
街を歩く若者は、みんな笑顔だった。
何だか分からないが、すべてが楽しそうに見える。
日本中が好景気に沸いている……。
俺自身には恩恵があるようには思えなかったが、株価も土地も上がる一方だ。
今は、良い時代なのかもしれないな……。
俺は、そんなことを考えながら下北沢の駅に着く。
俺には確かめなければならないことがある……俺の未来を切り開くために……。
そして俺は、駅の階段を駆け上がった。