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「……あの日、カレンとカノンは……あの事故があった日……」



エリは言いにくそうに、それでも必死に言葉を続けた。



「ふたりは、お互いの服を交換して出掛けていたの……」


「……だから、ふたりは間違われたってことか?」


「……どうしてだかは分からない。きっとカレンがそうしたいって言ったんだと思う……」



俺は、事件が起こったあの日のことを想像していた。



派手好きなカレンと、大人しいカノン……。


ふたりは、お互いの服を交換して散歩に出掛けた。



そして、あの土手で……ふたりに何かが起こったんだ……。



「……カレンは、カノンになりたかったんだと思う。自分に比べて幸せなカノンに……でも……」


「……でも? でも、何なんだいエリ?」


「カノンも、幸せじゃなかったんだと思う。カノンは悩んでいたの。自分がイヤで仕方ないって……」



幸せかどうかなんて、人から見たんじゃ分からない。


俺は自分自身のことから、それが良く分かっていた。



そこそこの会社に入って、それなりの仕事をしている。


女には不自由しないし、傍から見たら俺だって幸せそうに見えるのかもしれない。



だけど……。

俺はユウナを失ってから、ずっと幸せなんかじゃなかった。



俺は愛した女を死なせてしまう……不幸にしてしまう……。


そんな男なんだって、自分自身をずっと責めてきたのだから。



「カノンは、何を悩んでいたんだ? もしかしたら……俺のことか?」


「……ううん、それは違うよ。だって、シュンさんに逢ったのは……カレンだもの……」



えっ?


俺は、エリの言葉に驚いていた。



俺が逢ったのは、やはりカレンだったのか……!?


でも……あのときカレンはカノンと名乗った。



俺が、やはり……カレンを殺してしまったのか……?